第二十四話『ワン・フォー・オール』
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その闘いは、一言で言えば”次元を越えた死闘”だった。
液晶越しで見ると非現実感が否めないのだが、遠くで建物が壊れる音を聞くとこれが現実なのだと嫌でも意識した。
一瞬ヘリの高さまで飛ばされたオールマイト先生は、その激しい戦闘でボロボロだった。
それをグラントリノ殿が掴み、地上へ戻す。
カメラを避ける様に、その身体を隠す様に。
『悪夢のような光景!
突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!
現在オールマイト氏が、元凶と思われる敵と交戦中です!』
ヘリに乗るアナウンサーが、現状を伝える。
液晶に釘付けな俺達は、ただそれを聞いていた。
もしかしたら、耳に入っていない者もいるかもしれない。
『信じられません!敵はたった一人!
街を壊し!平和の象徴と互角以上に渡り合ってー…』
この場にいる者達から、不安と恐怖を俺は感じとれた。
テレビを見ている多くの人間は、同じ気持ちだろう。
平和の象徴が、ここ迄ボロボロにされて不安になるなという方が可笑しいのだ。
………だが、余りにも背負い過ぎている。
オールマイト先生は確かに素晴らしいヒーローだ。
けれど、日本中の…世界中の一般市民達の平穏と天秤にかけるには、余りにも重い。
「彼だけに、全てを委ね過ぎではないのだろうか。」
信頼を、抑制を、平穏を…。
一人一人の意識で、変えられる部分もあるだろうに。
…俺はこのヒーロー社会の黒い部分を、今回触れてしまった気がする。
そして、俺が考えに耽っているとオール・フォー・ワンは腕を膨らませ、強烈な衝撃波を繰り出した。
今までの比では無いその威力。
煙が晴れて、そこにいたオールマイト先生の姿が液晶に映し出された。
「え…?」
「お…、」
「なんだ、あのガイコツ…。」
殆どの者が口を半開きにさせて、驚愕した。
オールマイト先生の、その現状に。
隠し続けてきたであろう、その正体に。
『えっと…何が、え…?
皆さん、見えますでしょうか?
オールマイトが…しぼんでしまってます……。』
アナウンサーですら、言葉を見失う光景を後目に、俺は彼と何時ぞやで会った事を思い出す。
あれは、確かまだ俺が出久を緑谷殿と呼んでいた時。
今の状態のオールマイト先生が共に居たのを見た時だったか。
あの時、俺は感じていた。
オールマイト先生の本来の姿だと。
事情があると汲んで、俺は深く追求はしなかった。
しかし、それを隠し続けられた世間は…とてつもない衝撃だろう。
液晶に映された彼は、オール・フォー・ワンに何か言われたのだろうか。
いつもの笑顔はなく、苦痛の表情を浮かべていた。
しかし、正体が映し出された一瞬。
確かに俺は見た。
オールマイト先生の奥、瓦礫の中に女性が一人巻き込まれていたのを。
オールマイト先生は避けれなかった訳ではなく、守ったからこそあの場で明らかになったのだ。
「そんな…嫌だ………オールマイト…!」
「あんたが勝てなきゃ、あんなの誰が勝てんだよ…。」
その言葉を皮切りに、民衆が口に出す。
頑張れ、と。負けるな、と。
ヒーローへの信頼は、窮地においても健在だった。
「「勝てや!!オールマイトォ!!」」
出久と勝己の声が、一際大きく聞こえた時。
オールマイト先生の右腕が、ズンと大きく重く膨張した。
「……どんな姿でも、貴方の遺したものが今、何よりの力だ。」
ヒーローとは、かくも難しい。
守るものも多く、いつだって命懸けだ。
俺も、なれるだろうか。
あの様な…素晴らしいヒーローに。
…きっと、一人ではなれないだろうな。
そう思いながら、俺も握り拳を作りこの戦いの行く末を見届ける事にした。
右腕に最後の力を振り絞るオールマイト先生を見て、オール・フォー・ワンは宙に浮く。
そして、空中で何か仕掛けようとした所で炎が襲いかかった。
カメラが向けられ、その先にいたのはエンデヴァー殿とエッジショット殿。
漸くアジトの方が片付き、助太刀に来たのだと分かった。
しかし、助太刀…にしてはエンデヴァー殿の表情はオールマイト先生への憤りを感じる。
彼の立場を考えると……その表情も分からなくはないが、今は強敵を目の前にしているのだから言い争っている場合では…。
そう俺が思っている間に、エッジショット殿がオール・フォー・ワンに攻撃を仕掛ける。
エッジショット殿は奇襲を得意としているのに、態々死角の無い空中で攻撃を繰り出した事に俺は驚いた。
そうして時間稼ぎをしている間に、シンリンカムイ殿が他のヒーローを救助し、虎殿が瓦礫に埋もれた女性を救けていた。
液晶を見ている民衆は、声を張り上げる。
届くとか届かないとかは関係無く、その場で祈り声援を送った。
”平和の象徴”…オールマイトの勝利を願って。
オール・フォー・ワンが衝撃波を放ち、周りにいたヒーロー達を吹き飛ばす。
そして、奴は右腕の形を変えていく。
確実に命を狙った禍々しいその腕は、握り拳を作りオールマイト先生へと向かっていく。
拳と拳がぶつかり、その地区一帯に爆発が起こる。
砂煙が凄くて、状況を把握出来なかった。
その煙が晴れた時………クレーターの真ん中には倒れ伏したオール・フォー・ワンと、両腕をボロボロにしながらも片手を挙げたオールマイト先生がいた。
『オールマイトォ!!』
全員が声を上げ、涙を浮かべた。
痛ましいその姿と裏腹に、悪に打ち勝った
『敵はーー…動かず!!
勝利!!オールマイト!!
勝利の!!スタンディングです!!!』
俺は、その姿を静かに見守っていた。
彼にあった眩い聖火の様な覇気が、殆ど失われていたのを液晶越しに感じたからだ。
決着が着いたと同時に、他のヒーロー達が瓦礫に埋もれた人達の救助活動を始める。
駅前でも、毛布の配布や電車の運行停止を告げる声が後を絶たない。
「身動きがとれんな…。
轟くん八百万くんらと合流したいが…。」
「とりあえず動こうぜ。
爆豪と西椋のこと、ヒーローたちに報告しなきゃいけねーだろ。」
人波に揉まれながら、俺達は液晶を離れて歩き出す。
そんな時、聞こえてきたその声。
『次は、
君だ。』
カメラに指を指し、短く告げられた言葉。
それを見ていた人々は歓声を挙げる。
一見それは、まだ見ぬ犯罪者への警鐘。
平和の象徴の、折れない姿を表している様に見えた。
しかし、俺や出久には真逆の言伝に聞こえた。
私はもう、出し切ってしまった。
…そう、聞こえた。
出久の瞳は、涙の膜がはり静かに流れ落ちる。
「…大和君?」
「む、」
天哉が心配そうに声を掛けた。
それと同時にぽた、と手の甲に落ちたのは透明な雫。
……俺も、気が付いたら涙を流していたようだ。
情けないと思いつつもぐい、と拭う。
「…大丈夫だ。…行こう。」
天哉を安心させる為俺は微笑み、1歩前へ踏み出した。