第二話『入試』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最寄りの駅から地下鉄等を乗り継いで凡そ一時間。
聳え立つ門を眺め、その建物の大きさに圧倒される。
学校説明会の際に来た時にも思ったが、色々と大きい。
ぞろぞろと会場へ向かう学生達に合わせ、実技試験の概要を聞く為にホールに入る。
受験票を片手に定められた席に着く。
まだ早い時間の様で学生はホールの半分くらいだった。
隣を見ると、席に用意されていた資料を穴が開くほど見つめる眼鏡の少年がいる。
此方の視線に気付いたのか、顔を上げて俺と向き直った。
「…おはよう!」
「あぁ、お早う。」
緊張からなのか普段からなのか眉間に皺を寄せ、手がかくかくと妙な動きをする少年の挨拶を返す。
「此処で出会ったのも何かの縁。俺は凝山中学出身の西椋 大和だ。宜しく。」
「ぼ、…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。宜しく。」
お互いに軽く握手をし、俺も資料に目を通す。
…やはり予想はしてたが戦闘か。
ん?しかし、相手は機械なのだな。
少しだけ懸念していた部分に余裕が出来て、ほっと息をつく。
「西椋君、何か嬉しい事でもあったのかい?」
「む、あぁ。相手が機械だと分かってな、少し肩の荷が降りた。」
「…個性の関係か?」
「そうだ。俺の個性は、…余り人に向けるものではないのでな。」
飯田殿が成程と頷き、深くは聞いてこなかった。
彼のそんな配慮も有難い。
お互い頑張ろう!と最後は声をかけて貰えたので、それに返事をすると少しずつ会場が暗くなってきた。
飯田殿は最初は固い印象があったが、中々に好青年と見た。
この試験で存分に能力を発揮できるといいな。
腕時計を見るとそろそろ開始の様で、飯田殿も俺も舞台に注目する事にした。
今まで気にしていなかったが、この短時間で会場には学生が溢れかえっていた。
この数が、雄英を受けるのだ。
雄英の門の狭さを再確認して、隣に立て掛けて置いていた竹刀袋を握る。
少し緊張している自身に喝を入れ、壇上に上がってきた派手な男に注視した。
『今日は俺のライヴにようこそー!!!
エヴィバディセイヘイ!!!』
照明が当たった瞬間、サングラスをかけた派手な怒髪天は咆哮を上げる。
別に怒っている訳でもなく、ただの髪型ではあるのは分かっているのだが矢鱈目の行く髪型だ。
凄い声量だが、これはあの男の個性なのだろうか?
『こいつぁシヴィーー!!!受験生のリスナー!
実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!
アーユーレディ!?YEAHH!!』
多分だが緊張を解す為に盛り上げているのだろう。
しかし…静まり返ったホールに男の咆哮はとても虚しく響いている。
と、同時に何やら後ろからぶつぶつと聞こえてきた。
後ろを少し向いてみると、目の大きい乱雑した頭の男子が感激している所だった。
…まぁ、そういう者もいるだろう。
さて、男子に気を取られてると話はずっと進んでしまっていた。
大体は資料に書いてあったので、別に構わない。
どうやらプレゼン後は指定の演習会場に向かうらしい。
受験票を確認し、資料の地図を見た。
『各々なりの"個性"で"仮装敵"を
もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?』
舞台の液晶に何やら映像が流れている。
それを眺めていると、隣から動く気配がした。
「質問よろしいでしょうか!?」
飯田殿が毅然と立ち上がり、壇上の男を見ている。
「プリントには
誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!
我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
資料に目を戻すと確かに敵は四種記載されていた。
D=0ということは…ポイントが付かない敵なのか?
「ついでにそこの縮毛の君。」
後ろの方を指す飯田殿は、先程俺も気になっていた男子を睨んだ。
「先程からボソボソと…気が散る!!
物見遊山のつもりなら即刻、雄英から去りたまえ!」
何もそこまで言わなくとも…と思ったが、受験当日で皆張り詰めているのだ。
こういった些細な事も気になってしまうのだろう。
ちらと飯田殿を見ていると壇上の男は説明を始めた。
すーぱーまりおぶらざーず、というのはやった事ないが大体理解は出来た。
どうやら試験の妨げをする障害物らしい。
時間も10分と短い中で倒しても0ポイントという事は、この敵は思う存分に邪魔をしてくるのだろう。
その解答に満足した飯田殿は深く一礼してから座る。
俺は少し声を掛けた。
「…飯田殿、もう少し棘のない言い方出来たのではないか?」
「む!西椋君は彼の知り合いか?」
「知り合い…という訳では無い。飯田殿はいい御仁なのに、少し誤解されそうな言動だったからな…。」
礼儀正しい彼が誤解されたままは、少しばかり胸に凝りが残る。
そう思っていると飯田殿は少しばかりバツの悪そうな顔をした。
『最後にリスナーへ我が校"校訓"をプレゼントしよう。
かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!
それでは皆、良い受難を!!』
最後にこう締め括った壇上の男は、盛大な拍手と共に幕を閉じた。
ぷるす うるとら……今後も縁のありそうな単語だな。
会場が明るくなり、皆が移動を始める。
飯田殿は受験票を見せてくれたが、どうやら別会場の様だ。
「では、また雄英で会おうな飯田殿。」
「あぁ!西椋君も健闘を祈る!!」
指定の更衣室と会場に向かう為、俺もまた出口へと足を動かした。