第二十二話『GEKITOTSU』
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病院の前から移動を始めた、緑谷・轟・切島・八百万・飯田の5人。
話は纏まったが、その前に殴ってしまった事に対して飯田が緑谷に謝罪をした。
しかし、飯田の真の目的は変わらない。
3人の行動に納得がいかないからこその同行である。
少しでも戦闘を行おうとすれば、即座に引き戻す、そう宣言した。
そして、その宣言に八百万が全面的に同意した。
友を思う気持ちが理解出来るこその妥協案であり、現場を見てみればその無謀な発想に気付いてもらえるだろうという、冷静な思考が奥底にあった。
発信機の示した座標は、神奈川県横浜市神野区。
今いる場所から出発して新幹線で2時間ほどの距離がある。
向こうに着くのは夜の10時頃になるだろう。
「あの…この出発とか詳細って、皆に伝えてるの?」
新幹線内で緑谷が恐る恐る聞けば、轟と切島は同意した。
席でお弁当やおにぎりを食べながら、少しばかり話をする。
言った後、余計に止められてしまった事。
その後麗日がダメ押しのように一言残した事。
『爆豪くん、きっと…皆に救けられんの屈辱なんと違うかな…。』
その言葉を聞いた緑谷は、攫われる際に遺した爆豪の言葉を思い出す。
「一応聞いとく。
俺たちのやろうとしてる事は、誰からも認められねぇエゴってヤツだ。
引き返すなら、まだ間に合うぞ。」
お弁当を食べる轟の目は真っ直ぐであり、迷っている様な気配を感じない。
「迷うくらいならそもそも言わねえ!
あいつらは敵のいいようにされていいタマじゃねえんだ…!」
おにぎりを噛み締める切島からも、そういった感情は見受けられなかった。
「僕は…後戻りなんて出来ない。」
緑谷の表情は固く余裕は感じられないが、しかし曲げるつもりもない頑固さを感じ、八百万は静かに目を伏せ、飯田は緑谷をじろりと見遣った。
そうして、夜の帳が落ちた頃に着いたのはネオンが光り人が行き交う神野区だ。
早速突っ走る切島に待ったを掛けたのは八百万である。
隠密行動する為にも、顔が割れている自分達が出来ることとは?
そこで、八百万がとある提案をする。
その指先には、何でも揃ってそれでいて安い。
激安の王道、ドンキ・オオテがあった。
数十分後…、各々が変装を終え店舗から出てくる。
チンピラのような格好をした緑谷や切島と違い、ホスト・ホステス・客引き等に変装した轟や八百万、飯田は中々見違えた様な気がする。
少々言動が可笑しいのはご愛嬌である。
「八百万…「創造」でつくればタダだったんじゃねえか?」
その問いかけに対して八百万は、もごもごと言い訳をし始める。
結局はお嬢様である八百万はドンキに入ってみたかったのだ。
可愛らしい我儘である。
「お?雄英じゃん!!」
誰かが言った一言に、ギク!と髪の毛が逆立つような心臓の悪さを感じる。
思わず緑谷が振り返ると、ビルの3階部分に設置されている大型モニターに、ニュースが報じられていた。
『ーー では先程行われた、雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい。』
場面にはスーツを着てネクタイをかっちり締めた相澤先生とブラドキング先生、そして根津校長が頭を下げていた。
相澤先生の顔はしっかり髭を剃られて、普段のぼさぼさ髪もぴっちりと固められていた。
謝罪の内容は、合宿襲撃事件で生徒28名に被害が及んでしまった事、そして敵意の防衛を怠り社会に不安を与えた事に対するものだ。
メディア嫌いの相澤先生が、公に出て謝罪をしている。
1Aの生徒達はそれだけでも驚きだった。
『今回生徒に被害が出るまで、各ご家庭にはどのような説明をされていたのか。
又、具体的にどのような対策を行ってきたのか、お聞かせ下さい。』
そして、メディア側も敢えて質問を飛ばしてくる。
まるで悪者に仕立てるよう、ボロが出ないか確かめる様なものだ。
『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討。
”強い姿勢”で生徒の安全を保証する……と、説明しておりました。』
根津校長が質問に答えた時、モニターを見ていた一般市民が声を上げる。
「は?守れてねーじゃん。」
「何言ってんだこいつら。」
ヒーロー社会は結果が全て。
信頼が揺らぎ、空気が澱んでいくのを緑谷達は感じ取っていた。
一方、その報道は
「不思議なもんだよなぁ…。
何故
拘束されている俺達に見せつけるが如く、死柄木は両手を広げた。
「奴らは少ーし対応がズレてただけだ!
守るのが仕事だから?
誰にだってミスの一つや二つある!
「おまえらは完璧でいろ」って!?
現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ。
爆豪くん、西椋くん!」
俺は兎も角、勝己は未だに睨みを利かせるのを止めない。
蜥蜴のような男が、ステインが以前言っていた事を口に出した。
守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでは無くなったと。
尚も死柄木は演説を続ける。
人の命を金や自己顕示に変換する異様、それをルールでギチギチと守る社会。
敗北者を励ますどころか、責め立てる国民。
ヒーローとは、正義とは何か。
この社会が本当に正しいのか、一人一人に考えてもらう。
勝つつもりで此処までしてきたと言う。
「君達も、勝つのは好きだろ。」
言い募る死柄木の目の色を、俺はじぃと見ていた。
そこに静かに燃えるものは無く、ギラギラと今にも焦げ付きそうな加虐心を隠そうともしていなかった。
「荼毘、拘束を外せ。」
「は?」
荼毘に伝えた命令に、俺も思わず死柄木と荼毘を交互に見てしまう。
「暴れるぞ、こいつ。」
「いいんだよ。
対等に扱わなきゃな。
スカウトだもの。それに…。」
こいつ、と言った時勝己の方をちらりと見遣った荼毘だが、死柄木はそれでも良しとした。
「この状況で暴れて勝てるかどうか、分からないような男じゃないだろ?雄英生。」
立場を逆手にとったその言葉は、下手な真似をすれば殺される事も感じ取れるものだ。
死柄木の言葉に荼毘も納得したのか、覆面の男…トゥワイスに勝己の拘束を解くように伝える。
もう一つの鍵をポケットから出した荼毘は、俺に付いている両手の枷を外した。
外している間に、荼毘がミスターと呼んでいた男が謝罪をして来た。
強引な手段であった事に対してだ。
「我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむ、ただの暴徒じゃねえのを分かってくれ。
君達を攫ったのは偶々じゃねえ。」
その言葉と同時に、死柄木が立ち上がり勝己に向かって行った。
「ここにいる者、事情は違えど『人』に『ルール』に、『ヒーロー』に縛られ…苦しんだ。
君ならそれを ーー… 」
ーー ボカァンッ!!
瞬間、死柄木の胸倉を爆撃が襲う。
本人は顔を狙ったつもりの様だが、咄嗟に避けられたようだ。
「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!
馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ!
要は「嫌がらせしてえから仲間になって下さい」だろ!?
無駄だよ。」
どうやら、攻撃をかました勝己は我慢の限界だったようだ。
その苛立ちは声色から察する事が出来た。
「俺は、
誰が何言ってこようが、そこァ
勝己のヒーローとしての原点。
それを聞いた俺は、少しだけ胸をなで下ろした。
勝己なりの目標があるとは思ってはいたが、ちゃんと言葉で聞けて安心した。
棒立ち状態の死柄木はさておき、俺は椅子から立ち上がり、勝己の元へ走った。