第二十一話『敗け』
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衣擦れする音で、俺は目を開ける。
パイプ式のベッドと使い古されたマットレス、そしてそれに反比例する様に真新しいシーツが俺を包んでいた。
仄暗い部屋に窓は無く、俺の目は慣れない中で愛刀を手探りすると、丁度に足元に立て掛けられていた。
ーー ちゃり…
体を起こし、手を動かすと首辺りと手首を中心に金属音が響いた。
触ってみると、首輪のようなものとそれぞれの手首にも似たような手枷が付いていた。
手枷事態は両手の間に鎖が付いていて、日常動作で余り不自由はしないが、刀を振るとなると少し厳しい長さだった。
首輪の方は鎖の先が壁に繋がっており、この簡素で狭い部屋の半分に行ける程しか長さが無かった。
目が慣れてきた所で、少しだけ視線を動かすと点滴を吊るす医療用のそれがある。
暫く見つめていたがぐぅ…、と控えめに腹の音が鳴った。
「………監禁、か。」
真に賢しい
自分が監禁される側になるとは思いもよらなかったが。
取り敢えず、ベッドから降りて愛刀を持つ。
その都度、鎖はちゃりちゃりと音を鳴らした。
「皆は、無事だろうか……。」
呟いた言葉と同時に、ぱちりと部屋の照明が付く。
急に来た人工的な明るさに、思わず目を何度か瞬きをした。
「起きたか、西椋 大和。」
「お前は……。」
目の前の、重そうな錆びれた鉄の扉から現れたのは継ぎ接ぎの男。
相澤先生が相手をしていた
「俺は荼毘。
Mr.が強めの催眠薬使ったって言ってたけど、2日間寝てるとは思わなかった。」
ガラガラと、一緒に運んできたその台には真新しい点滴と管、針などが置いてある。
それを適当な所に置いた荼毘は、俺とまた向き合った。
「まァ、何度か点滴で栄養補給して衰弱は免れてるけどな。
死柄木が呼んでるから、バーまで行くぞ。」
近付いて来た荼毘に、俺は思わず愛刀に個性を宿し瞬時に鞘を抜き、奴に向けて構えた。
その時間は、歩数で言うと一歩程の間だった。
Mr.というのは、俺が最後に見たあの仮面の男の事だろうか。
あれから2日も経っていたんだな…。
俺が牽制も込めて荼毘を睨むと、ぴたりと止まった奴は何が面白いのかニヤリと口角を上げる。
「…こんなガキなのに、殺気と覇気は一人前なんだな。」
俺は荼毘から目を離さないが、奴もまた俺から目を離さない。
飄々した男だが、俺が逃げる為のその隙は一切無かった。
自分の肌がぴりぴりと、相手の殺気を感じ取る。
俺はそれを跳ね除ける様に、もう一度強く睨み付けた。
「それ以上近付けば……斬る。」
そう口に出すと、荼毘は少しだけ嗤った様に感じた。
「だが、そうだな。」
瞬きをした、その一瞬。
俺の真横を灼熱が通り過ぎる。
その蒼い業火は壁に当たり、俺の首に繋がれていた鎖を溶かし壊した。
「まだまだ温い。」
それに気を取られていた俺は、奴の声が思いの外近い事に気付く。
しまった、そう思った時には掌が目の前に迫っていた。
ーーッダン!!
首を前から引っ掴まれ、勢いを殺すこと無く壁に叩き付けられる。
強かに打った背中と後頭部の痛みに、目の前がチカチカと点滅する。
この状況で意識を手放す訳には行かず、大きく息を吸おうと思ったが上手くいかず噎せてしまった。
「ッ!?げほっ…!」
「おっと、いけないいけない。
アンタは大事な勧誘相手だった。」
白々しくそう宣った荼毘は、そのまま力の抜けた俺を肩に担ぐ。
楽しそうに鼻歌を歌いそうな雰囲気のまま、序に俺が取り落とした鞘を拾い、愛刀に納め只の木刀に戻した。
「……勧誘、とはどういう事だ…?」
「そのまんまの意味だよ。
アンタは死柄木に気に入られちまった。
…まァ、俺も実際に見てみたら、その理由が解ったけどな。」
肩に担がれた俺は、されるがままの状態であり、振り落とされる前に少しでも情報を探ろうとする。
しかし、暖簾に腕押しなその返答に俺は眉を顰めた。
「西椋 大和、アンタが本気の殺意を抱いた時…とんでも無い”バケモノ”が生まれる、そう感じさせるのさ。
だから、ーー… 堕としたくなる。」
俺と目を合わせた荼毘の目は、底の見えない井戸の様な暗さがあった。
その表情に、俺は背筋に氷を入れられた様な寒気を感じる。
「誰が……バケモノだ…。」
「じゃあ何て呼ぼうか。
修羅、鬼、人外…呼び方は様々だ。
相当勿体無いことしてるんだぞ、西椋 大和。」
何を言っても無駄か…。
話の平行線に俺は思わず溜め息を吐く。
上機嫌のまま、片手で恐らくバーへ続く扉を荼毘が押し開いた。
ぎぃ…と開けられた扉の向こうには、少し古びたバーカウンターがあり、今回合宿に襲撃して来た
「やぁ、気分はどうだ?」
「…最悪だな。」
その中心には…死柄木 弔が歪な笑顔で迎えていた。
死柄木との間に1つ席を空けて、俺はバーカウンターの椅子に降ろされる。
両手を繋ぐ鎖を、荼毘が握った。
腰のホルダーに愛刀は戻されたが、短くなってしまったこの鎖では、抜刀も出来ない。
「何でテメェがいやがる…!」
その声に振り向くと、丁度死角になっていた所に拘束具と椅子で固定された勝己がいた。
俺が現れた事で、勝己の顔が一瞬焦った様な表情をする。
「……面目無い。」
勝己にそれだけ言うと、勝己の眉間の皺は更に深くなった。
「早速だが…、ヒーロー志望の爆豪 勝己くん。
そして、西椋 大和くん。
俺の仲間にならないか?」
死柄木のその投げ掛けられた言葉を返す前に、勝己は死柄木を睨み付け吐き捨てた。
「寝言は寝て死ね。」
その威勢の良さに、俺も少しだけ心に余裕が出来る。
死柄木に目線を送り、俺も一言だけ伝えた。
「熨斗をつけてそのまま返そう。」
この部屋に1つだけあるテレビ。
それは何故かずっと付きっぱなしだった。
そこから流れるCMの音楽が、厭に不釣り合いで…不気味に感じた。