第二十一話『敗け』
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「んなもんわかってるよ!!
でもさァ!何っも出来なかったんだ!!」
だがそれに負けじと、切島も声を張った。
その目に迷いなどは一切無い。
「ダチが狙われてるって聞いてさァ!!
なんっっも出来なかった!!しなかった!!
ここで動けなきゃ俺ァ、ヒーローでも男でも無くなっちまうんだよ!」
上鳴と蛙吹が、病室内である事を理由に声を抑えろとジェスチャーするも、切島は止まらない。
例え、飯田が正しいとしても、それは止められなかった。
「飯田が皆正しいよ、でも!!
なァ緑谷!!
まだ手は届くんだよ!」
先程まで寝ていた緑谷は、上半身を起こした状態で飯田と対峙している。
これから判断すべきものによっては、亀裂が入ってしまうとしても、その瞳には決意が宿っていた。
轟は努めて冷静だった。
先日の敵が発した言葉を頼りに仮説を立てる。
轟や緑谷は『殺害対象』と言われ、爆豪と大和は『殺さず攫った』、今は生かされているとしても殺されないとも言い切れない。
「俺と切島は行く。」
「ふっ、ーー ふざけるのも大概にしたまえ!!」
そろそろ堪忍袋の緒が切れそうな飯田を止めたのは障子だ。
「切島の「何も出来なかった」悔しさも、轟の「眼前で奪われた」悔しさもわかる。
俺だって悔しい。
だが、これは感情で動いていい話じゃない。」
その言葉に、青山や常闇が賛同する。
既に戦闘許可は解除されている以上、プロヒーローに任せるべきものだった。
「皆爆豪ちゃんや西椋ちゃんが攫われてショックなのよ。
でも、冷静になりましょう。
どれ程正当な感情であろうと、また戦闘を行うというのなら ーー 、
ルールを破るというのなら、その行為は
蛙吹の率直で、今までの中でも核心を突く言葉に1A全員が黙り込む。
長いようで短い沈黙を破ったのは、緑谷の担当医だった。
診察の為、生徒達は退散する事になる。
だが、最後に一言だけ切島は残していった。
「八百万には昨日話した。
行くなら即行…今晩だ。
重傷のおめーが動けるかは知らねえ。
それでも誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ。」
今晩、病院前で約束を交した男達は、静かにその場を去ったのだった。
そして、その夜。
少し太った三日月が暗闇に明かりを灯していた。
病院の前には、切島と轟が佇んでいる。
「八百万…考えさせてっつってくれた………どうだろうな…。」
「まァ…いくら逸っても結局あいつ次第……。」
その2人の前、病院から姿を現したのは少し険しい顔の八百万。
…そして、後ろには緑谷が居た。
八百万の答えを切島が聞く前に、固い声が後ろから投げ掛けられた。
「待て。」
「飯田。」
そこには、歯を食いしばり拳を握った飯田がいる。
彼は、この光景を1番見たくなかった人物だ。
「………何で、よりにもよって、君たちなんだ…!
俺の私的暴走をとがめてくれた…、共に特赦を受けたハズの、君たち二人が…っ!!!」
緑谷と轟の顔を、直視することが出来ず地面を一点に見つめる。
その顔は、怒りや呆れといった簡単なものではなく。
「何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?
あんまりじゃないか…!」
「何の話してんだよ…。」
切島が話の意図が読めず、そこに割って入ろうとすると隣にいた轟に止められる。
「俺たちはまだ保護下にいる。
ただでさえ雄英が大変な時だぞ。
君らの行動の責任は誰がとるのかわかってるのか!?」
顔は見ず、しかし正論を厳しく浴びせる飯田に弁解しようと緑谷が前に出る。
ーーゴチッ!!
鈍く硬い音が、響いた。
雄英に入って緑谷にとって初めて出来た
その光景に、思わず3人が顔を顰めた。
「俺だって悔しいさ!!心配さ!!当然だ!!
俺は学級委員長だ!
クラスメイトを心配するんだ!!
爆豪君や大和君だけじゃない!!
君の怪我を見て、床に伏せる兄の姿を重ねた!!」
殴った飯田の方が、ずっと痛そうな顔をして、その心の内を吐露する。
「君たちが暴走した挙句、兄のように取り返しのつかない事態になったら……っ!!
僕の心配はどうでもいいっていうのか!!
僕の気持ちは………、どうでもいいっていうのか……!」
最後は緑谷の両肩を掴んで、訴えかける。
緑谷は言葉が詰まってしまい、俯いた。
だが、そこに声を掛けたのは轟だ。
「飯田。
俺たちだって何も正面きってカチ込む気なんざ、ねえよ。」
「………!?」
虚をつかれた様な表情をした飯田に、切島が被せる。
「戦闘無しで救け出す。
ようは隠密活動!!
それが俺ら卵に出来る…ルールにギリ触れねえ戦い方だろ。」
その言葉に、今まで口を閉ざしていた八百万も口を開く。
「私は轟さんを信頼しています…が!!
万が一を考え、私がストッパーとなれるよう…同行するつもりで参りました。」
思わぬ所からの助け舟に、飯田が目を見開く。
そして、緑谷自身も漸く自分の考えに行き着いた。
「僕も…自分でもわからないんだ…。
手が届くと言われて…、いてもたってもいられなくて…。
救けたいと、思っちゃうんだ。」
その眼差しと言葉に、飯田はこの話題が平行線であることを思い知る。
そして、飯田自身も覚悟を決める。
「ーー…ならば、ーーー…っ、俺も連れて行け。」
「!?」
思わぬ提案に、周りの4人に衝撃が走った。
これから月夜に紛れる様に、卵たちは危ない橋を渡る事になる。
一方ではプロヒーロー達が勢揃いし、
……また、その一方では…。