第十九話『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』
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俺の前には、数々の立派な岩が聳え立っている。
それは大人2人分もあるだろうか。
俺なんかはすっぽりと隠れてしまう大きさだ。
真剣となった愛刀を構え、岩を斬って小石くらいの大きさにしていく。
俺は3つの岩を小石の山に変えたら、縮地である所へ跳ぶ。
「!! 来たな西椋!!」
「横槍をすまぬな。」
尾白殿と組手をしていた切島殿に真剣のまま斬り掛かる。
勿論それは弾かれるのだが、そのまま攻撃の手は止めずに切島殿を追い詰める。
苦しそうではあるが、切島殿の硬度は依然保ったままであった。
流石切島殿である。
近くに置いてあった時計が鳴ると、俺はそれを止めてまた縮地で岩場に戻って行く。
今日はこれを何度も繰り返すのだ。
岩場に戻れば、ピクシーボブ殿の個性で岩が復活している。
俺が伸ばす限界は、発動回数・時間の延長と剣術と刃の向上。
今までの鍛錬はあくまでも自身の体を作り、どの様な動きにも対応出来る基礎の部分だった。
故にここ迄長時間、自分の個性と向き合った鍛錬は初めてである。
他の生徒達も各々の修行方法で、個性を極限まで虐め抜いていた。
B組の面々が来ても休む事は無い。
今はまだ何事も無く発動出来る俺の個性だが、使い過ぎると酷い目眩と頭痛を引き起こす。
しかし、その状態になっても修行は続けなければならない。
中々に厳しい修行だ。
だからこそ、教師陣も全体を見渡せるようにしている。
本来ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツは4人のチームだ。
2日目に合流したラグドール殿はサーチという個性を持っており、その目で見た情報は100人まで居場所も弱点も把握出来る。
ピクシーボブ殿は土流を使って俺達に適した修行場所を作り、その都度試練を与える。
マンダレイ殿はテレパスという個性で、一度に複数の人間へ助言を送る事が出来るのだ。
そして最後の合流した虎殿は…増強型の個性達を兎に角痛め付ける。
否、語弊があるか…。
筋力強化の為に独自の運動方法を取り入れている。
それで漸く、最も合理的にこのA組B組合計41人を教育が出来るとの事。
だが、しかし……流石に強行突破が過ぎる気がする。
この短期間で飛躍的に向上させるには、やはり多少の無茶が必要なのだろう…。
軽い頭痛がやってきた事を確認しつつ、俺はまた修行へ意識を集中させた。
夕方4時。
地獄の特訓が終わり、夕餉の時間となる。
これからは自分達で夕飯を作らなければならないという事で、修行でくたくたになっている俺達の返事は暗い。
天哉は何故かやる気になり、クラスを引率し始めた。
委員長節がここに来ても元気である。
「…お、っと…」
「西椋、無理するな。」
障子殿に肩を支えられ、俺は声のした方にお礼を言う。
俺は材料を斬る係なのだが、目眩と頭痛が限界突破している為、傍から見ると酷く疲弊しているらしい。
時間が経てば治ると思っていたのだが、思いの外長引いている。
それでも、何とか作れたカレーは俺達の胃袋を癒した。
俺はそこまで沢山は食べれなかったが、中々に美味かったと思う。
周りに心配を掛けてしまったが、寝たら治ると伝え風呂へと向かった。
そして就寝する際、少しだけ気になった事がある。
宿泊施設より大分離れた所だが、7人くらいの気配を感じた。
それは、俺の良く知る一般人の気配とは掛け離れた…少し異質な気配で、此処とは関係ない事を祈りつつ…先生に報告すべきか迷ってしまう。
だが、気の所為だろうと身も精神も疲れている事を理由に、とっとと就寝する事にした。
この判断が、後に影響して来るとは思いもよらず……俺は微睡みに意識を手放した。
3日目の昼、続・”個性”を伸ばす訓練。
今日の相手は相澤先生の方針により、補習でダレてしまった切島殿ではなく、洞窟で独り
岩場から洞窟まで少し距離がある為、昨日よりも縮地を多用する必要がある。
洞窟へ向かっている途中、相澤先生が補習組に喝を入れている所に出くわした。
「何をするにも原点を常に意識しとけ。
向上ってのは、そういうもんだ。
何の為に汗かいて、
何の為にこうしてグチグチ言われるか。
常に頭に置いておけ。」
その言葉に、俺は自分自身の原点を思う。
俺の、ヒーローを目指す切っ掛け………そうだな。
あの公園で、焦凍を救けたいと思った時からだった。
子供ながらに、あれやこれや考えて、それでも救いきれなかった。
だが、今の俺は焦凍だけではない。
俺の救える限り、手や足が届く範囲は救けたい。
幼子の頃より、大分欲張りになってしまった自覚はある。
だからこそ、力を付けなければならないのだ。
洞窟に辿り着き、奥へ進んで行く。
所々ボロボロに切り崩されているのは、この先に待つ
「ギャアアアア!!」
俺は神経を研ぎ澄ませ、その
「……凄まじいな。」
闇に飲み込まれる、そう表現しても可笑しくない。
中心にいる常闇殿は息を荒らげながらも、
しかし、この巨大な闇はそうそう止まる事はない。
俺は懐に入っているストップウォッチの時間を押した。
これから、防戦一方かもしれない立ち会いが始まるのだ…。
「常闇殿、いざ尋常に。」
「グッ、…西椋、余り無理はするな…!!危機を感じたら退け!!」
友の助言に頷きながら、俺はその切っ先を
「やはり、常闇殿は強いな…。」
「すまない西椋…。大事は無いか?」
夕方になり、特訓が終了した頃には、昨日よりも凄まじい頭痛と目眩が襲って来た。
俺は声のした方に何とか頷く。
あの状態の常闇殿は、滅法強かった。
正直、立っているのもやっとだ。
思った以上に個性を酷使し過ぎてしまったらしい…。
「西椋。」
「相澤先生。」
俺の肩に手を置いた相澤先生が、ぐるりと俺を方向転換させる。
あまりに唐突な動きだった為、俺はよろけてしまった。
「お前顔色酷いな…。風呂行って、食えそうなら飯食って先に休んでろ。」
その言葉に、この後はそう言えば肝試し大会があるとか言ってたな…と、頭の片隅に思い出したが、その申し出に俺は頷く事にした。
少し寝れば、この頭痛も良くなるだろう。
風呂に入り、大部屋で一人だけ布団を敷く。
布団に潜り込むと、すぐ様瞼が落ちてきた。
心に少しだけ寂しさを感じつつも、自分の不甲斐なさ故の結果である為、仕方の無い事なのだ。
俺も、出来る事なら肝試しに参加したかったな…などと甘ったれた事を思いながら、束の間の休息を得る事にした。