第十九話『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』
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「いただきます!!」
今までは、入浴してから夕餉だったから入浴より先に、こうして卓を囲むのは何だか新鮮だ。
切島殿や上鳴殿は空腹の余り不思議な言動となっているが、それもまた一興だろう。
「頂きます。」
焦凍の隣に座り、黙々と米を噛みしめていると目の前の口田殿が栗鼠の様に頬張っていて、思わず微笑ましさから小さく笑ってしまった。
「!!…、」
それに気付いた口田殿が、先程よりは落ち着いた箸の動きになる。
俺は気分を害したかと思い、「すまん、気にしなくていい。」と声を掛けたが、その言葉には即座に首を横に振っていた。
「大和、これ美味いぞ。」
「む?」
ふい、と横から鼻の近くに差し出された物を思わずぱくりとすると、甘酢タレの掛った唐揚げだった様でその肉汁に目を瞬かせる。
そして、肉を良く噛み飲み込んでからその犯人をじろりと見る。
「…焦凍、行儀が悪いぞ。」
「でも美味かったろ?」
きょとんとしたその顔が少しばかり憎く感じつつも、俺は食事を再開する。
やり取りを目の前で見せられた口田殿は、その時何故か目のやり場に困っていたらしい。
その後、食事も終わり入浴となる。
どうやら温泉らしく、その広い浴場に俺は感心していた。
「さて、と…」
まずは湯に浸かる前に一通り洗わねば。
体や顔、そして髪を洗っている時、いくつかの視線が背中に刺さる。
そう、俺だけではなく1A男子全員で入っているのだ。
他人の裸が気になって見る事もあるだろう。
しかし……何というか、視線の数が多い気がする……。
「…なんつーか、西椋が同じ風呂にいんの緊張しね?」
「……分かる。」
上鳴殿と切島殿は先に湯船に向かっていたはずなのだが、此方を見つめてひそひそと話している。
「大和君ってやっぱり筋肉綺麗に付いてるよね…あんまり見過ぎちゃうの良くないって分かってるけど、やっぱり視線が行っちゃうっていうか…!」
「眼鏡がないから否定も肯定も出来ないが、彼が日々努力しているのは周知の事実だからな。」
「大和と一緒の風呂入ったの、中学の修学旅行以来だな…。」
出久や天哉、そして焦凍は同じく体や髪を洗いながら此方を見ている。
邪な気配を感じない分、どうでもいいかという気分になってくる。
同性だからな、気にする方が野暮だろう。
洗い終わった髪を持参してきた結紐で纏め、体を洗った手拭いを腰に巻き湯船へ向かう。
俺が動いた事で、俺に注目していた目線は散って行った。
先に浸かっていた常闇殿と障子殿の間に邪魔をする。
声を掛けると、びくりと肩を動かして、俺が入りやすいようにしてくれた。
「そこまで驚かなくてもいいだろう。」
「否、心の準備が…。」
「…気にしないでくれ。」
そう言った二人の視線はあまり合う事が無かった。
だが、それにしてもいい湯だな。
少し緑がかった薬湯は、今日の疲労を溶かしていくように感じる。
ふぅ、と息を着くと両脇の二人は何故かまたどきりとしていた。
「……ところで、あれは何をやっているんだ?」
俺の視界の先には、壁を見上げる峰田殿がいた。
……もしかして、否…もしかしなくとも…。
察した天哉が止めるも、峰田殿は凄い速さで壁を登っていく。
しかし、その先に待っていた洸太殿に野望は阻まれた。
……本当に峰田殿は懲りないな。
不意に、洸太殿が体勢を崩し壁から転落しそうになる。
俺も思わず立ち上がったが、一番にそれを救ったのは出久だった。
出久が洸太殿を運んで行くのを見て、俺はほっと一息を着き湯船へと戻った。
暫くして、体が十分温まった為風呂から出て体を拭き髪を乾かし、浴衣に着替えて共有場に出ると梅雨殿が居た。
「西椋ちゃん、いい所に来たわ。」
「如何された?」
「これ、西椋ちゃんの髪に塗ってみてもいいかしら。」
そう言って見せてもらったのは、椿の絵が描かれたチューブ型の容器。
どうやら、椿油を使ったオイルトリートメント?というものらしい。
「西椋ちゃんの髪、一度お手入れしたかったの。」
「…俺の髪で良ければ。」
椅子に座り、梅雨殿の好きな様にさせる。
オイルを手に馴染ませ、髪に塗り込んでいくとふわりと椿の匂いがした。
暫く、梅雨殿のされるがまま状態になる。
「ケロケロ♪これで終わりよ。ありがとう西椋ちゃん。」
「此方こそ、貴重なものを有難う。」
そう言い合って、俺達はそれぞれの部屋に戻った。
普段より髪がとてつもなくさらさらしている気がする。
就寝の為、下の方で髪を結い男子部屋に戻ると、布団が幾つも並べられていた。
「おー西椋!風呂長かったな!」
「ジジイかよ。」
切島殿と勝己にそう言われながら、まだ敷かれていない布団を手伝おうと2人を通り過ぎた時、2人の顔がカッと赤くなる。
「に、西椋から女の匂いがする!!!?」
「は??」
その声に男子全員が振り向く。
何か誤解をされている気がしたので、先程あった事のあらましを伝える。
何処からかほっ…としたような空気の抜ける音と、峰田殿からは歯を食いしばるような音が聞こえた。
そうして寝る前に何やかんやありつつも、無事就寝する事になる。
翌日、合宿2日目。
朝目を覚めると時計は4時半を指していた。
普段通りに目が覚めたので、俺は洗面台に向かい顔を洗って、体操服に着替える。
1時間後には集合の日程である為、俺は髪を櫛で梳かしぐっと結い上げる。
五時くらいになると、他の男子もふらふらと起きて来た。
普通の男子は、この時間に起きるのは中々きついと聞く。
雄英生でも、それは例に漏れないらしい。
俺は邪魔にならない様に愛刀を持ち、先に集合場所に行く事にした。
「お早う諸君。」
時間になり寝癖が付いたままの寝ぼけ眼な生徒が多い中、相澤先生は俺達に挨拶をする。
「本日から本格的に強化合宿を始める。
今合宿の目的は全員の強化及び、それによる”仮免”の取得。」
”仮免”……というのは、ヒーロー活動する上での、免許の前段階だったはず。
エッジショット殿もそのような事を言っていたな。
「具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。
心して臨むように。」
何人かが、ごくりと唾を飲み込むのが聞こえる。
朝日と共に緊張感が辺りを包んだ。
「というわけで爆豪。
こいつを投げてみろ。」
「これ…体力テストの…。」
勝己が投げ渡された物は、体力テストの際に使った距離を測定する球だった。
「前回の…入試直後の記録は705.2m…どんだけ伸びてるかな。」
その言葉で理解した生徒達が、勝己に声援を送る。
勝己は肩をぐるぐると回しながら、投げる体勢を取った。
「いったれバクゴー!」
「んじゃ、よっこら… くたばれ!!!」
……くたばれ…、と爆風と共に投げられた球を眺める。
暫くすると記録が出た。
「709.6m」「!!?」
出された数値に、肩透かしを食らった様な空気になる。
思ったよりも、伸びていない。
皆が一瞬そう思っただろう。
「約三ヶ月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している。
だがそれはあくまでも、精神面や技術面。
あとは多少の体力的な成長がメインで”個性”そのものは今見た通りで、そこまで成長していない。
だからーー 今日から君らの”個性”を伸ばす。」
唖然とする俺達の耳に、地獄の門が開かれた音が届く。
幻聴だとしても、それは確実に此方を飲み込もうとしていた。
「死ぬ程キツイが、くれぐれも…死なないようにーー…」
地獄の番人が笑うのを見据えつつ、俺は愛刀を握り締めた。