第十九話『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』
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「………とまあ、そんなことがあって敵の動きを警戒し、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。
行き先は当日まで明かさない運びとなった。」
「えーーー!!」
栞を生徒の目の前で破く相澤先生に、それぞれがどうしたもんか…といった雰囲気を出す。
しかし、合宿自体を取り止めないのは流石に俺も驚いた。
当時出久がショッピングモールで死柄木を止めなかった事を勝己が責め、それに対し萎縮する出久だったが、そんな勝己を葉隠殿が嗜めた。
勝己の性格は相変わらずである。
そんな事があった数日後、移動教室へ急ぐ天哉や出久の前に、相澤先生と心操殿が通り過ぎる。
出久が手を上げ挨拶するも、それはふいと視線を逸らされた。
その様子を少し後ろで見ていた俺も、無視されるかもしれないと思いつつも心操殿に軽く微笑む。
そうすると、何故か心操殿はびたりと歩を止めてしまった。
相澤先生も此方を強く何かを訴える様に見てくる為、少し気まずくなった俺は会釈し移動教室へ向かった。
ショッピングモールで買えなかった物は別の休日に用意し、学校では終業式を終え…そうして俺達は夏休みを迎える。
ーー 林間合宿、当日。
「え?A組補習いるの?
つまり赤点取った人がいるってこと!?
ええ!?おかしくない!?おかしくない!?
A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれれえ!?」
照り着く太陽よりも暑苦しい嫌味を止めたのは、例によって物間殿に手刀を繰り出す拳藤殿だった。
物間殿もA組に対する闘争心?敵対心?は相変わらずのようだ。
B組の女子達が挨拶をする中、峰田殿の様子が可笑しい事に気付いた切島殿が制止させた。
通報されても知らんぞ峰田殿…。
そしていつも通り、天哉が委員長節を発揮し俺達をバスへ誘導する。
何だかんだありつつもバスは定刻通り出発した。
「一時間後に一回止まる。
その後はしばらく…、」
相澤先生は俺達に声を掛けようとするも、それは車内のお祭り騒ぎで掻き消された。
何処かで菓子を配ろう、席を立とうとすれば天哉が止めに入り、それもまた賑やかな要因となっていた。
それに呆れながらも、先生は前を向き直す。
俺は席順の関係で、今相澤先生の隣にいる。
先生が言い逃した言葉が気になっていた。
「……先生?」
首を傾げ先生を見るも、相澤先生は少し息を吐き俺の頭を2回ぽふぽふと叩き、「まぁ、大丈夫だろ。」とだけ呟いた。
そして、1時間後。
とある山間地帯に止まったバスを、俺達は降りる事になった。
「西椋、木刀持ってけよ。」
「あ、はい。」
相澤先生に言われ俺は竹刀袋を背負う。
皆を先に行かせ、俺は最後にバスを降りた。
拓けた場所には柵があり、その先には幾つもの険しい山と緑が広がっている。
「つか何ここパーキングじゃなくね?」
「ねえアレ?B組は?」
皆が不思議がり始めたくらいで、先生が口を開く。
「何の目的もなくでは、意味が薄いからな。」
「よーーーう、イレイザー!!」
「ご無沙汰してます。」
明朗な声に相澤先生が頭を下げた。
その先には…。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』
猫のような戦闘服を着た2人の女性が構えを取り、脇に居た男児はそれを冷ややかな目で見ていた。
出久が説明口調で経歴を謳っているが、この方々もヒーローなのだな。
山岳救助が主な活動か…。
「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。
あんたらの宿泊施設は、あの山のふもとね。」
「遠っ!!」
中途半端な距離で降ろされた皆が、嫌な予感を感じ取る。
ふむ、と俺は竹刀袋から愛刀を取り出し心構えをしておいた。
「今はAM9:30、早ければぁ…12時前後かしらん。」
「ダメだ…おい…。」
「戻ろう!」
一部の生徒達は、バスの方へ走る。
切島殿は焦った様子で、皆にバスへ戻る事を伝えた。
「12時半までに辿り着けなかったキティは、お昼抜きね。」
「悪いね諸君。」
地面が海面の様に、大きく揺らいだ。
その衝撃で、俺達は思わずたたらを踏む。
「合宿はもう、始まってる。」
それは津波の如く、俺達を飲み込み崖下へ落としていく。
大きく放り出された出久を空中で受け止め、土流に巻き込まれぬ様更に跳ぶ。
着地した場所は、思いの外土が軟らかかった。
「私有地につき”個性”の使用は自由だよ!
今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!
この…”魔獣の森”を抜けて!!」
鬱蒼とした木々が、俺達を待ち構えていた。
抱えていた出久を降ろす。
出久は少し恥ずかしそうにお礼を言ってきた。
それに対して俺も頷くだけに留めておく。
「”魔獣の森”…。」
「なんだそのドラクエめいた名称は……。」
生徒達が次々と土砂から姿を現す。
俺はさほどでも無かったが、何人かは土まみれになったようだ。
半ば諦めた様に生徒達は森へ進む事にしたが、突如森から現れたその奇っ怪な獣に、視線を釘付けにされた。
魔獣、と呼ばれても可笑しくないそれは口田殿の呼び掛けにも応じない。
それは、良く見ると土で出来た動物だった。
俺は縮地で魔獣の懐へ潜る。
だが、考えている事は同じらしい。
出久、勝己…天哉、そして焦凍。
俺とほぼ同じくらいに飛び込んで行った彼等は、見事魔獣を撃破した。
何を持ってこの様な事をするのか、この先に待ち受けている合宿の意図をまだ掴み切れていない。
成ればこそ、まずは突き進んで行くのみ。
俺は皆が山道で逸れないように注意しながら、この森を抜けて行く事になった。
数多の魔獣を斬り崩し、危ない所は助太刀する。
そうして進んで行って、漸く建物が見えてきたのは、夕方くらいだった。
「とりあえず、お昼は抜くまでもなかったねぇ。」
皆疲労の色を隠し切れていない。
俺はまだ疲れてはいないが、他の者達が心配だった。
先程の3時間というのも、彼女等にとってはという事だったらしい。
道を知っている者と、魔獣が出て来ない道であれば、確かにそれくらいで済むだろう。
先程の2人いた女性のうち1人、ピクシーボブ殿は更に告げる。
「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。
いいよ君ら……特に、そこ5人。
躊躇の無さは
そうして指を差されたのは、最初の魔獣に対して攻撃を仕掛けた俺達5人だった。
「三年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!!」
そして何故か彼女に唾を吐かれる。
俺は後ろの方に居たが、前の方に居た勝己が迷惑そうにしている。
向こうの方で、奇行を見ていたマンダレイ殿と相澤先生が話をしていた。
そんな中、出久が先程から居る男児について聞く。
聞いてみればマンダレイ殿の従甥だそうだ。
親戚の子を預かっているとなると、何か訳はありそうだな…。
「あ、えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。
よろしくね。」
出久が手差し出すと同時に、男児の拳が出久の股座を殴打した。
その容赦無い攻撃に、思わずゆっくりと目を逸らす。
余りの衝撃に出久が倒れ伏せ、天哉が何故だ!?と噛み付く。
「ヒーローになりたいなんて連中と、つるむ気はねえよ。」
「つるむ!!?いくつだ君!!」
侮蔑の様な視線と言葉を投げ、洸太という男児は行ってしまった。
その言動に勝己が鼻で笑っていたが、隣に居た焦凍が余計な事を言い、勝己がそれに怒鳴り返していた。
改めて、相澤先生が指揮を執る。
「部屋に荷物運んだら食堂にて夕食。
その後入浴で就寝だ。
本格的なスタートは明日からだ。
さァ早くしろ。」
宿泊施設の入口を指差し、俺達は近くに止まっていたバスから荷物を降ろす事となった。