第十八話『演習試験』
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「西椋。西椋、そろそろ着くぞ。」
「…む。」
目を開けると障子殿と尾白殿が居た。
俺とした事が完璧にうたた寝をしていたらしい。
「お早う、障子殿。尾白殿。」
「ああ。」「着く頃には昼前だけどな。」
そうして小さく笑い合い、暫くしたらショッピングモールへと辿り着いた。
天哉が指定した集合場所に向かうと何人かは到着しており、集合時間には欠席を申し出た勝己と焦凍以外全員が集まった。
「県内最多店舗数を誇る、ナウでヤングな最先端!
木椰区ショッピングモール!」
ざっと見渡すだけでも、家族連れやサラリーマン…あるいは大学生らしき団体など様々な人がこの施設を利用していた。
謳い文句を聞いていると、成程と頷ける。
今では人の形の定義が無い中個性に合わせた服を、それぞれの店が販売しているのだ。
出久の癖である独り言が加速して行く。
隣にいた常闇殿がそれに待ったを掛けた。
一部の所では俺達雄英生を見つけて盛り上がっている所もある。
さて、買い物を…とした所で皆の目的がバラバラな為自由行動となった。
「よっし、西椋行くぞ!」
「ピッタリなお店あったんだよねー!」
芦戸殿と上鳴殿に肩を捕まれ、俺はそのまま引き摺られて行く。
あ、と思い2人に例の分厚いメモを渡した。
「ふむふむ…あーー、分かるーー!」
「お前んとこの家族、めっちゃ西椋のこと分かってんな。」
合点承知と言わんばかりに、メモを眺めながら俺達はこのショッピングモールを回る事になった。
向かった店で幾つか服を渡され、俺はそれを着替える。
着替えている間に切島殿も合流したようだ。
試着室の向こうから声を掛けられ、それに答えるように仕切りを開くと、皆の反応が返ってくる。
「イイ……やっぱ素がいいと何着せても様になる……めっちゃ楽しい…!!」
「西椋…覚悟しとけ?お前、今の3倍はモテるぞ。」
「おぉー!西椋それ似合ってる!!
動きやすそうじゃん!」
それぞれに有難う…と声を掛けつつ、俺自身も腕を上げてみたり屈伸してみたりする。
ふむ……思ったより動きやすいな。
しかし、このスキニーとやらの脚に密着する感じは少し慣れない。
制服のズボンとはまた違う感じだ…。
次はコレ!と差し出された物を受け取り、俺はまた試着室に戻る。
この店は洋服ながら襟元や素材、模様等が何処か和服に近い形で売られている。
普通の洋服もあるのだが、それ等を組み合わせると俺にピッタリな『和風こーで』とやらが出来るらしい。
着替えた俺はまた3人の前に姿を現す。
3人はまた、それぞれ親指を立てていた。
「……結構買ったな。」
「いやぁーー、楽しかったー!次靴見てこーよ!」
「俺のオシャレ番長が久々に疼いちまったぜ…!」
「俺も靴見てーから行こーぜ!」
会計した数々の服は家に郵送してもらう事にした。
中々の荷物になると身構えたが、最近ではこう言った事もやっているんだな。
住所などを伝票に記入して、控えを貰い俺は皆の元へ戻った。
さて、靴屋だが制服の時は革靴を履いているが、それだと合宿先では不便するかもしれないらしい。
幾つか並んでいる靴を見ていると、天哉が声を掛けてきた。
「に、大和君!」
「呼び辛かったら西椋でもいいぞ?」
それにはぶんぶんと首を横に振る天哉。
そんな高速に振ると首痛めるぞ…。
「靴は良いの見つかったのかい?」
「いや、まだ来たばかりでな…。」
靴1つとっても色々な形がある。
上鳴殿達曰く、今回の選んだコーデだと黒い靴が無難らしい。
それを伝えると、天哉はふむ…と考えて、1つの靴を俺に見せてきた。
「ここの会社が作っている靴はどうだろう。
踏み込みが強くても丈夫で、足への負担が少ない事で有名なんだ。」
一見黒いシンプルな運動靴だが、踵の部分に青い石の様なものが埋め込まれている。
綺麗だな、と思っていると天哉が椅子を此方に持って来て履いてみてくれ、と誘導して来た。
俺は天哉にされるがまま、取り敢えず持って来ていた靴下を履き、その靴を受け取る。
履いてみると、窮屈感も靴が擦れる所も無さそうでとても良い物だと分かった。
そして、驚いた事に踏み込んでみても歩いてみても音が最小限であり、代わりに踵の青い石が静かに光った。
「これは……凄いな…。」
「気に入ってもらえたかな。」
天哉の問いに頷き、俺は購入を決める。
この靴は戦闘でも使えそうだ。
戦闘服でもこの技術を取り込めないだろうか。
一度打診してみよう。
次に旅行で必要そうな物を買いに行こうか、とした時であった。
何やら外が騒がしい事に気付く。
胸騒ぎがして下の階を見下ろすと1階ホールの方と入り口の方で、ヒーローと警察がこのモールにやって来ていた。
俺は急いで裏手の非常階段の方へ向かい、騒ぎの中心へ行こうとした時だった。
「やぁ、西椋 大和。」
階段を降り切った所で、声を掛けられる。
その聞き覚えのある声に振り向くと、黒いフードを被ったあの男がいた。
「……死柄木、弔…。」
俺が名前を呼ぶと、死柄木は何がそんなに愉しいのか至極機嫌が良さそうにしていた。
「おまえは、何でヒーローになった?」
そう聞いてくる死柄木に、燻るものは感じるが殺意は感じない。
俺は一歩ずつ近付きながら、死柄木を貫く様に見つめる。
「泣いている者を……助けて欲しいと願う者を、放っておけないからだ。」
そう伝えると、虚をつかれた様な顔をし俯く死柄木。
後数歩で間合いに入る所で、奴は顔を俺に合わせた。
「おまえは…違うんだな。」
「何がだ。」
「みぃんな、オールマイトだったからさ…。」
何故そこでオールマイト先生が出てくる?
そう不思議に思っている瞬間に、奴は俺の間合いを抜け、黒い靄と共に消えてしまった。
……逃がしてしまったか…。
『今度は勧誘しに行くから。またな…西椋 大和。』
最後、耳元で呟かれたその言葉を俺は消し去る為2、3度頭を振った。
一体全体、何が起きているんだ。
その後、ショッピングモールは一時的に封鎖されヒーローと警察が付近を捜索するも、死柄木は逃げおうせたそうだ。
俺は、途中で塚内殿を見たが死柄木に会った事は心の内に秘めておく事にした。
警察に言える事は、殆ど無いと自己判断したからだ。
実際に死柄木と対話という名の脅迫被害に遭ったのは出久だったらしく、俺は心配しつつも家路に着く事になる。
楽しい買い物で終わるかと思ったが、まだまだ受難は待ち受けているらしい。
自身の力不足に苦虫を噛み潰した顔をしつつ、俺は玄関の戸を開けた。