第十八話『演習試験』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一歩進んだ者、壁に阻まれた者、悲喜交々の中期末実技試験が終了し……、一方で闇もまた新たな闇を生んでいた。
それが、俺達にどう影響を及ぼすのかはまだ解らない。
「………悲壮感が漂っているな。」
翌日、テストを終えた教室内の一部は酷く落ち込んだ雰囲気を醸し出していた。
切島殿と砂藤殿、芦戸殿と上鳴殿の所は実技試験が条件を達成出来なかったそうだ。
芦戸殿が泣きながら皆に別れの言葉を告げているが、出久はそれを慰める。
上鳴殿は出久に逆上しながら言葉を返すが、瀬呂殿に止められていた。
瀬呂殿も峰田殿の助太刀で条件達成出来たそうだが、本人は寝ていただけな為合格かどうかは怪しいらしい。
そんな中、予鈴が鳴り相澤先生が教室へと入って来た。
「おはよう。
今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。
したがって…林間合宿は全員行きます。」
「どんでん返しだあ!!!」
4名の声が重なり、教室内が歓声に沸いた。
「筆記の方はゼロ。
実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ。」
今回の試験で先生側は、生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るように動いており、採点基準はそれぞれだが追い込む為に色々してきたそうだ。
「そもそも林間合宿は強化合宿だ。
赤点取った奴こそ、ここで力をつけてもらわなきゃならん。
合理的虚偽ってやつさ。」
「ゴーリテキキョギィイー!!」
先生が愉しそうに笑っているのを、眺めつつ話は進んで行く。
赤点組は別途で補習が待っているらしく、その言葉に狂喜乱舞していた5人は顔を青ざめさせた。
配られた合宿の栞を、俺はぺらりと捲る。
中々の大荷物になりそうだな。
そうして、放課後となり皆が合宿の話を始めた。
「あ、じゃあさ!
明日休みだしテスト明けだし…………ってことで、A組みんなで買い物行こうよ!」
葉隠殿の提案に何人かは賛成した。
特にお祭りごとが好きな切島殿や上鳴殿が、勝己を誘うも勝己は拒否した。
出久に声を掛けられていた焦凍も、見舞いの関係で行かないらしい。
「西椋は来るよな!?な!」
「あ、ああ。そうだな。……その、」
「ん、どした?」
栞を読んでいて少し気恥ずかしくなったが、意を決して聞く事にした。
「此処に、履きなれた靴で…とあるのだが…草履は不可なのだろうか…?」
この時、皆の心が一つになる。
『もしかして西椋(大和)(くん)、洋服持ってないのでは???』
何人かが顔を合わせて頷きあった。
上鳴殿が咳払いをして、俺の肩を抱いてきた。
「折角だし、俺達で西椋の私服見繕ってみようぜ!!」
「さんせー!さんせー!イケメンの私服コーデ出来るとか楽しすぎでしょー!!」
「いや、あの、」
まさかの展開で思わず待ったを掛けようとするが、焦凍が向こう側で親指を立てていた。
「俺はそういうセンスとかねえけど、大和今度見舞いの時着てこいよ。」
「焦凍!?」
天哉や出久がそれとなく、「着慣れない服より動きやすい服装がいいぞ!」とか「訓練中は道着袴とかでもいいかもね!」と助言しているのだがクラスの皆はわいのわいのと賑やかで、つい明日が来るのが不安になってしまった。
その日の夕方、帰宅して夕餉を黙々と食べる俺だがつい上の空になってしまった。
「兄さん?大丈夫ですか?」
安土と姉上が特に心配そうに此方を見ている。
俺はその視線にハッとし、苦笑いを浮かべる。
「大和さんがそこまで上の空になるのは珍しいわね。
明日はお休みでしょう?」
母上もそう言いながら俺の方を見てきた。
むず痒さを覚えながら、今日学校で起きた事を話す。
その内容に安土と姉上が目を輝かせた。
「「兄さん(大和)が洋服デビュー!!」」
重なったその言葉と同時に、食卓がわぁっと賑やかになった。
何やら2人で相談会を始め、母上はあらあらと言いながらも、戸棚の引き出しを開けて袱紗を俺に持たせてきた。
中を見ると10枚程束になった一万円札が…。(しかも新札)
「は、母上!?こんな大金困ります!!」
「余ったらお土産代などにしてくださいな。
大和さんは武志さんに似て、眉目秀麗ですからどんなお洋服も似合うと思うわよ。」
だ、駄目だ…贔屓目が過ぎる…母上は一度決めたら梃子でも動かないからな…。
俺がそっと父上の方を見ると、父上は一度だけ此方をちらりと見てから、「楽しんでいきなさい。」とだけ声を掛けられた。
そんな夕餉を終え、俺が自室に帰ろうとすると安土と姉上に呼ばれる。
安土の部屋に入ると雑誌を片手にあれが似合うこれが似合うと2人が盛り上がっており、俺は置いてきぼりな状態になった。
ぼとむす…、とっぷす?あうたー…??
聞きなれぬ単語が飛び交うその会議は、俺が寝落ちてからも続いたらしい。
その翌日、俺は朝の鍛錬を終えた後、身を清めてから普段は余り着ない作務衣に着替えていた。
曰く、試着室では着脱が楽なものの方が良いらしい。
また上だけ下だけ着替える可能性もあるので、着物ではなく上下で別れているものが良いとの事。
靴も選んでもらうならば、と制服で着ている無地の黒靴下も持っていく。
この格好では素足と草履だがな。
安土と姉上に持たされた分厚いメモには、一週間理想の着回しコーデとやらが書かれている。
クラスメイト達にも見てもらって、と姉上が言っていたが一体何が書いてあるのか俺にはさっぱりだった。
これから着せ替え人形になる覚悟を決めて、俺は支度を終えて駅前に向かう。
確か、これから行くショッピングモールは俺の行く最寄り駅前から直通バスが出ているらしい。
A組の何人かはこのバスで合流出来そうだな。
駅に着いてから例のバスに乗り込み、発車までの間ラインを確認する。
天哉は委員長らしいというか何と言うか、もうショッピングモールに着いて集合場所の目処をつけているらしい。
各々がその発信に返信をし、俺も短く了解の返信をした。
出発の時間となりバスが動き出す。
俺はバスに揺られながら気分が高揚しているのか、にやける口元を抑えつつ大人しく座っていた。
そういえば、クラスの面々とわいわい買い物するなど、初めてだ。
雄英高校に通い出してから、初めての事が盛り沢山で毎日がとても眩しい。
母上が昨日嬉しそうにしていたのは、この変化を好ましく思っているからかもしれないな。
俺は自他ともに認める子供らしくない子供だったから、この間の勉強会もずっと微笑ましそうにしていた。
知らぬ所で、親に心配を掛けていたかもしれない。
自分の変化に擽ったく感じつつ、心の中でもう一度家族に感謝して俺は瞼を閉じ、このバスの揺れに身を任せる事にした。