第十七話『備えろ期末テスト』
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「んだよロボならラクチンだぜ!!」
俺と同じ様な感想を述べる上鳴殿と芦戸殿は、その顔に笑みを浮かべる。
「おまえらは対人だと”個性”の調整大変そうだからな……。」
「ああ!ロボならぶっぱで楽勝だ!!」
「あとは勉強教えてもらって」
これで林間合宿バッチリだ!!と元気良く両手を挙げる2人は油断し切った状態になっている。
その空気に爆弾を投下するのは、勝己だった。
「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ。
何がラクチンだアホか。」
「アホとはなんだアホとは!!」
「うるせえな。
調整なんか勝手に出来るもんだろ!
アホだろ!
なぁ!? デク!」
酷く苛ついている勝己は、出久を睨み付けている。
いつもの勝己が仕掛ける一方的な売り言葉とは少しだけ違う雰囲気があった。
「”個性”の使い方…ちょっとわかってきたか知らねえけどよ。
てめェはつくづく俺の神経逆なでするな。」
その言葉に、今日の授業で行った救助訓練レースが思い浮かぶ。
一番真近にいた者を参考にするのは、別に悪い事では無いとは思うのだが、勝己はそれが苛つくらしい。
「体育祭みてえなハンパな結果はいらねえ……!
次の期末なら個人成績で否が応にも優劣つく…!」
何歩か近付いて、そして勝己は出久を指差した。
「完膚なきまでに差ァつけて、てめェぶち殺してやる!
轟ィ…!!てめェもなァ!!」
そのまま扉を勢い良く開けて出て行った勝己を、皆が怪訝そうに見ながら皆それぞれ帰路に着いた。
俺の名前は呼ばれなかったが、勝己にとって俺はそこまで眼中に無いという事なのだろうか?
まぁ、勝己とは体育祭で一応差は着いたしな。
明日はそんな一悶着を起こした勝己と、切島殿と勉強会だ。
湯浴みした髪を乾かしながら、ふと思う。
そういえば駅前の『ふぁみれす』に集合と言っていたな。
ふぁみれす、言葉には聞いた事があるが利用するのは初めてだ。
あまり恥ずかしい所を見せないように下調べしておいた方が良かっただろうか…。
未だ見ぬふぁみれすと勉強会に思いを馳せながら、俺は床に着いた。
翌朝、いつも通りの時間に起きて鍛錬を始める。
休日はこの鍛錬は3倍にするのだが、今日は用事がある為2倍程で終わらせる。
軽く体を清め、俺は時間を確認した。
今から準備して駅前に着くのは凡そ11時くらいか。
約束時間の1時間早く着きそうだが、支度してしまおう。
勉強道具や連絡用の携帯、それから財布。
一応念の為に愛刀も持って行こう。
共に歩くのは頼もしい2人ではあるが、民間人の救いとなる場合もあるしな。
早く着き過ぎた場合も、近くの広場で鍛錬する事が出来る。
今日も暑くなるだろうから、比較的涼しい麻の単衣着物を出し、ふぁみれすのクーラー負けをしない様に一応夏羽織も着て行く。
そう言えば……焦凍以外の友人と休日に会うなんて事も無かったな。
家族には友人達と勉強会をする事を伝え、支度を終えた俺は玄関先で「行って参ります」と声を掛け、蝉の鳴く通りを歩き始めた。
「あれってさ……」
「やっぱり雄英の……」
駅前は休日なのも相まって人が多い。
昼前にもなると、それは顕著であった。
約束の時刻まではあと30分くらいあるのだが、駅前に着いてから遠くで写真を撮られたり話し掛けられたり、サインを求められたりしていて少しばかり気疲れしてしまった。
否、ヒーローたるものこれくらいは朝飯前なのだろうか。
「なぁなぁ、アンタって雄英体育祭で1年の部3位だった西椋 大和??」
「確かにそうだが…」
呼ばれた方を振り向けば、ヤクザ崩れの様な風貌の男が4、5人…下衆な笑みを浮かべながら此方を見ていた。
「マジもん見ると意外とちっせぇな!」
「何言ってんだよ高校1年生だぜ?これからだろぉ!ギャハハハッ!」
声を掛けた男の後ろにいる取り巻き共が何か言っているが、それに反応するよりも早く、目の前の男が言葉を続けて来た。
「俺達よぉ、これから飯行くんだけどこの大人数だから手持ちの金が足りない訳よ。
こんな綺麗な着物着て街中歩いてんだ、相当『お小遣い』貰ってんだろ?」
胸ぐらを掴みそうな雰囲気のまま、一歩ずつ俺に近付き、態々屈んで目線を合わせ睨みつけて来る。
「人助けすんのが『ヒーロー』なんだってなぁ。
俺等困ってんから、ちぃーと助けてくんねぇ?」
懇願の様子はなく、只の脅迫であるそれは悪意を乗せて俺に届く。
男達を一瞥して、俺は小さく溜め息を着いた。
いい大人が高校生にカツアゲとは…頭が痛くなるな。
待ち合わせをしているだけなのに、全くどうしたものか。
「オイ。何してんだ。」
横の方から声が掛かる。
其方を見れば、ポケットに手を突っ込んで男達を睨んでいる勝己が居た。
「勝己。」
「てめェも下んねえのに構ってんじゃねェ。」
俺の手首を掴み、ぐいと引き寄せられる。
男達は喚くが、勝己が距離を取ってくれたお陰で少し遠くに聞こえた。
「お巡りさんこっちッスー!!」
「やべェ!サツ呼ばれた!」
「行こうぜ!!」
先程の威勢は何処へやら…。
蜘蛛の子を散らす様に去って行った男達と、それとすれ違う様に切島殿が現れた。
「大丈夫だったか西椋!?」
「あ、あぁ。二人共忝ない。」
少し周りを見ると警察の者はおらず、切島殿が咄嗟に機転を利かせた詭弁である事が分かった。
勝己が引き寄せた手を離す。
その掌の熱さに、一瞬火傷してしまったかと思った。
「要らぬ世話を掛けて申し訳ない。」
「ケッ、世間知らずのボンボンかよてめェは。」
「とか言って、一緒に歩いてたらいきなり走り出したから俺ビックリしたんどうわァっ!??」
ボンッ!!と突然起きた小さな爆発音と焦げ臭い匂いに、俺は下げていた頭を上げて前を見る。
勝己がその片手を燻らせながら、切島殿を物凄い形相で睨んでいた。
止めろ勝己…子供が泣くぞ…。
「それにしても、西椋って着物が私服なんだな!」
「ああ、そうだな。」
勝己の攻撃もさらりと流し、持ち前の丈夫さで切島殿はぴんぴんしている。
そしてずんずんと先を行く勝己より、俺の服装の方が気になるらしい。
「やっぱすっげェ似合ってる!!」
「あ、有難う…。」
暫くして目的地に着きふぁみれすに入ると、涼しい店内と賑やかな雰囲気、美味しそうな香りが辺りを包む。
「此処がふぁみれす……。」
「ボーッとしてんな。席行くぞ。」
着いた席では、彩り豊かな献立表が置いてあった。
俺がそれを眺めている間に、勝己はどりんくばーとやらを3つ頼み、切島殿は何処から持ってきたのか消毒液が染み込んだ手拭きを人数分用意していた。
「西椋!ドリンクバーだから好きな飲み物取って来いよ!」
「む?」
「うん??」
暫しの沈黙が訪れる。
俺の表情に察した切島殿は、思わず噴き出した。
「マジで西椋ってファミレス初めてだったんだなァ!」
「今時んなヤツいんのかよ…。」
「現にいるじゃんか!!」
切島殿に一通り説明を受け、俺はコップに黒豆茶を入れて席に戻る。
便利だなファミレス…。
ボタンを押すと一瞬で飲み物が出てくる…。
昼餉として軽めの食事を頼み、待っている間に他愛の無い会話をする。
…と言っても、話題に入るのは切島殿くらいで、勝己は黙々と教科書を眺めていた。
食事を終え机の上が片付くと、俺達は早速教科書とノートを出し、筆記用具を構えた。
「んで?どこが分かんねェんだ雑魚共。」
「英語の…、此処から此処まで…だな。」
「俺は数学と古文と英語とー、特にここら辺だな!!」
その切島殿の言葉に勝己が鼻で笑う。
それに対して切島殿は鼻で笑う事ねぇーだろー!と軽く反論していた。
こんなにも賑やかな勉強会は初めてだなと改めて思いつつ、俺達は勉強へと取り掛かった。