第十七話『備えろ期末テスト』
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救助訓練レースが終わり、男子陣は更衣室でそれぞれの課題と向き合っていた。
やはり個性によって得手不得手はあるものだ。
「それにしても西椋お前また速くなってなかったか??」
「そうか?」
切島殿にそう聞かれても自覚が無かった為疑問符が浮かぶ。
俺は障子殿の立派な上腕二頭筋を触らせて貰っていた最中だった為、取り敢えず障子殿から手を離す。
「個性把握テストの時は、踏み込む度に地面抉れてたけどよ。
今回のレースじゃ、お前パイプとか壁とか傷付けずに行けてたしさ。」
「…まぁ、力加減は出来る様になったか。」
確かに入学当時、縮地の調整はせずに時間を計って貰ったが、今回の授業では建物の被害は最小限でと言われていたしな。
調整が上手くなったのは体育祭の時くらいからか。
「西椋、あの動画さ…。」
上鳴殿と尾白殿も声を掛けてくる。
その単語に何人かの男子は振り返って様子を伺っていた。
「お前、ヒーロー殺し相手に立ち塞がってたよな?」
問い掛ける口調ではあったが、表情としては確信しているものだ。
心配や疑念、様々な感情が読み取れる。
俺はそれに「ああ。」と肯定した。
その答えに上鳴殿や尾白殿だけではなく、様子を伺っていた者達も驚いた表情をしていた。
「俺が一番ステインに近かったからな。
俺の体が動く限りは、皆を救けたかった。」
そう言いながら俺は中断していた着替えを再開する。
ワイシャツを着て、束ねた髪を外へ逃がす。
ネクタイを結び、上着を羽織った。
竹刀袋も忘れずに背負い込み、もうすっかり着替え終えた俺は、扉へと向かう。
「体が勝手に動いていた。
それだけの話だ。」
皆の方を振り返り、そう伝えてから更衣室の扉を閉め、俺は教室へと戻る事にした。
俺が立ち去った後、切島殿や上鳴殿が更衣室で感動していたり、峰田殿が不埒な行いをして女子陣の反撃を喰らっていたりと中々賑やかだったらしい。
そして、学生達にとっては恐怖の期間が着々と迫っていた。
帰りのホームルームでその事は知らされる。
「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間一ヶ月休める道理はない。」
その言葉に教室内はざわめく。
「夏休み、林間合宿やるぞ。」
「知ってたよーーーやったーー!!!」
皆が湧き上がり、思い思いに夏の風物詩を語り始める。
合宿であるから、寝食共に活動するのは心躍る者もいるだろう。
自然環境内では活動条件も変わってくる。
「ただし。
その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ。」
「みんな頑張ろーぜ!!」
なんと…補習になると林間合宿は行けないのか…。
これは、俺もうかうかしてられんな。
元々病院内や空き時間に勉強はしていたが、苦手科目はもう少し重点的に行う必要があるかもしれん。
これからテストに向けての大まかな日程を決めていく。
出来ればまた天哉に教わりたい所だが、最初は苦手ではない科目の復習からしていこう。
そうして時は流れ、6月最終週……期末テストまで残す所一週間を切っていた。
全く勉強をしていなかったらしい上鳴殿や芦戸殿が、焦燥の表情や朗らかな笑顔を後目にクラス中は異様な雰囲気に包まれていた。
因みに俺の筆記の成績は中間では6位だった。
ただ、中間は入学したての頃で範囲も狭かった。
行事も重なり範囲も広くなった期末は、更に演習試験も用意されているらしい。
出久や天哉が上鳴殿達に声を掛けるが、成績優秀生が何と言っても皮肉に受け取ってしまうだろう。
そんな2人に八百万殿が救いの手を差し伸べる。
座学で一位の彼女がいれば百人力であろう。
そういえば、ここ最近悩んでいる様子だった八百万殿だが、他の生徒に頼られる事でそれも一時は持ち直したらしい。
…さて、俺はどうしたものかな。
焦凍の教え方は参考にならないし、また天哉に教わろうと思えば出来るかもしれんが、天哉は最近兄の見舞いやら何やらで忙しそうにしている。
正直、あまり負担は掛けたくない。
まだ英語の方が不安な俺が悩んでいると、ふと教室の片隅が目に映る。
俺はええい、とこの勢いに任せて其方に声を掛ける事にした。
「俺も、教えて貰って良いか?」
「はァ゛?」
「ぅえ!?西椋も来んの!!?」
俺の目の前には勝己と切島殿がいる。
2人共、俺が声を掛けたのが意外だった様で切島殿に至っては「古文の天才来たー!!」と目を輝かせている。
「テメェ…メガネ野郎と半分野郎はどうした。」
「焦凍は…教えるのは得意でないみたいで、要領得なくてな。
いつも教わったりしていない。
天哉は兄の見舞いがあるそうだから、あまり負担を掛けたくないと思ってな。」
「ケッ!…好きにしろ。」
「忝ない。」
こうして、俺達は明日と明後日の休みに集い勉強会をする事になった。
その日の昼休み、昼餉を食べている時に出た話題で気になるものがあった。
演習試験の内容についてだ。
「ううむ、もし対人になるのであれば多少対策を練らねばな…。」
この時期旬の蛸飯定食を食べつつ、俺は思案した。
「一学期でやったことの総合的内容。」
「とだけしか教えてくれないんだもの。相澤先生。」
「戦闘訓練と救助訓練、あとはほぼ基礎トレだよね。」
黙々と食べ進めながらも和やかに会話をしている女子と、それに同意した出久が意気込んだ所で誰かの肘がぶつかる。
ふむ、このいんげんの胡麻和え中々良い味が出ているな…。
「ああ、ごめん。
頭大きいから当たってしまった。」
「B組の!えっと…物間くん!よくも!」
む?何方様だ??
この物間殿という少年は、何やらA組に強い執着心や敵対意識があるようで、昼餉を食べている俺達にちくちくと言葉で威圧をしている。
「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよね、A組って。
ただその注目って、決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね。」
馬鹿馬鹿しいなとは思いつつも、その方をちらりと見遣れば、いつの間にか後ろにいた女子に手刀をされ倒れていた。
彼女は同じB組の拳藤殿というらしい。
「あんたらさ、さっき期末の演習試験不透明とか言ってたね。
入試ん時みたいな、対ロボットの実戦演習らしいよ。」
その言葉に、俺の箸が一旦止まる。
出久が何処でその情報を手に入れたのか聞くと、拳藤殿は先輩に聞いたという。
ふむ、成程…絡繰相手ならば手加減せずとも良いか。
何かしらを呟いている物間殿をもう一度手刀で黙らせ、ずるずると引き摺っていく拳藤殿を一瞥し、俺は食事を再開した。