第十六話『決着』
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明朝の新聞には、ヒーロー殺し逮捕の見出しが大きく取り出されていた。
ニュースでは一旦は脳無の話が流れるが、それと関連付けた本題は矢張りヒーロー殺しステインである。
市民やヒーローが安堵する中、闇に蠢く者は密かに…しかし、確実に集おうとしているのだ。
「…大和、…おい、起きろ。」
「む…。」
どうやら、少しうたた寝をしていたらしい。
目を開けたら鼻先に焦凍の顔があり、思わず目を瞬かせる。
そこにガラッと扉を開けて入って来たのは、診察に行っていた飯田殿だ。
俺たちの距離を見て何を思ったのか、顔を朱に染めて壁に貼り付いてしまった。
「な、ななな、何をしてるんだ轟君!!!!?」
「大和を起こしてた。」
「ご、ご誤解を生むような行動をしないでくれ!!!」
飯田殿の反応に疑問符を浮かべつつも、俺は気を取り直すように飯田殿の診察結果を聞いた。
緑谷殿が電話から帰って来たのは、その数分後だった。
結論から言うと、飯田殿の左手は後遺症が残るらしい。
俺と緑谷殿が到着する前に切り付けられた所が、腕神経叢という部分に到達してしまい今後は手指の動かし辛さと多少のしびれが出てくるそうだ。
今回も、俺は間に合わなかったのだな…。
手術で神経の移植も出来るのだが、飯田殿はそれを良しとはしないらしい。
「俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う。」
緑谷殿は、その言葉に自身の右手を見つめる。
「飯田君、僕も…同じだ。
一緒に、強く…なろうね。」
ぐ、と握り拳を作ったその右手を、俺と焦凍は見ていたが何か焦凍は閃いた。
「なんか…わりィ…。」
「何が……」「どうした焦凍?」
普段は動揺などしない焦凍が珍しく汗を浮かべる。
「俺が関わると…手がダメになるみてぇな…感じに…なってる……呪いか?」
その意外な言葉に衝撃を受ける飯田殿と緑谷殿。
2人の笑い声が病室内に響いた。
「轟君も冗談言ったりするんだね。」
「いや、冗談じゃねえ。
ハンドクラッシャー的存在に…。」
「ハンドクラッシャーー!!」
俺はその和やかな病室で一息着く。
今までの空気は何とやらだ。
俺は寝台に置いてある解き途中の数学問題集をまた開き、勉強を再開する。
賑やかな病室だが、良識ある3人だからそこまで勉強も苦ではなかった。
寧ろ分からない所は積極的に聞けるから僥倖だったかもしれない。
ステインの最後は、動画として色々な所でばら撒かれているらしい。
あの壮絶な、それでいて統率性のある言葉の数々。
そういう思考の者を煽るには充分なものだろう。
一方で、その動画には俺が立ち塞がった所まで映っていたそうだが、あの独り言までは音声として拾われてなかったらしい。
この少年は誰だ?
何故立ち向かえた?
若気の至りではないか?
そういう言葉も付いて回ったそうだ。
インターネットを上手く扱えぬ俺が何故この情報を知っているのか。
それは、俺より数週間前に退院した安土に知らされたからだ。
安土は俺の話題に敏感だから、すぐそういうのを見つけてくる…。
只、俺の行動が波紋を呼んでいるとは思いもよらなかった。
面倒な事が起きなければいいのだが…。
「短い間ではありましたが、お世話になりました。」
戦闘服の入った鞄を傍らに、深々と礼をする。その向こうにはエッジショット殿とコガラスマル殿が居た。
そう、今日で職場体験も終わりである。
事務所の和室で俺達は、正座をして向かい合っていた。
少しばかり入院してしまったのは勿体無かったが、お二人は無事である事が何よりであると仰っていた。
本当に人が出来た方々だ。
「……あのステインの最後に、立ち塞がったと聞いた。」
「はい。」
「何故、そうした?」
エッジショット殿の問いに俺は少しだけ視線を下げる。
しかし、迷う必要など無かった。
視線を上げ、エッジショット殿を見つめる。
「救けようとしたからです。」
「味方だけではなく、ヒーロー殺しもか?」
その言葉に、俺は頷く。
コガラスマル殿が軽く頭を抱えた。
「ブシドウ、お主はヒーローの本質に近過ぎるな。お人好しが過ぎる。」
「……。」
「敵側には、なろうとしてそうなった者だけではない。
お主は辛い過去を背負った敵に、救いの手を差し伸べてしまうだろう。
それはとても崇高な事だ。
しかし、同時に命取りでもある。
ヒーロー殺しは”堕ちる覚悟を持って堕ちた”者だ。」
エッジショット殿の言葉を、俺は聞き漏らさないように受け止めていく。
エッジショット殿の顔には、俺に対する心配の感情が読み取れた。
「余り気を許し過ぎない様に。だが、職場体験…及びヒーロー殺しの件、立派であった。
また会う時を、楽しみにしている。」
「はい!」
立ち上がり、扉へ向かうと同時に目の前が暗くなる。
「んじゃぁ、エッジショットさん。
おれぁ、駅まで送っていきますわぁ。」
「うむ、頼んだ。」
またこの運び方なんだな…。
そろそろ慣れてきた目隠しに、俺も肩の力を抜く。
「有難う御座いました。」
最後にそう伝えた時、見えない筈だがエッジショット殿が笑った様に感じた。
その翌日、登校日。
焦凍と共に教室に入り、飯田殿と緑谷殿……いや、あの後名前で呼ぶ様約束したのだったな。
天哉と出久…まだ慣れぬな…。
4人でホームルームが始まるまで雑談をしていた。
暫くして、見知らぬ者が来た。
白金色の髪色に見覚えはある…しかし…。
「勝己…か?」
「見んな殺すぞ」
「髪切ったのか?」
「やっぱ殺す!!!!」
向かってくる掌を合気道で去なしながら、取り敢えず様子を伺う。
勝己の行っていた体験先は何処だっただろうか…。
髪型以外は特に変化は無かったが、美容室にでも行ったのか?
そのような事を考えている間に、切島殿と瀬呂殿に煽られ、勝己はいつもの髪型に戻っていた。
皆が体験先の話で盛り上がっている。
ラインで断片的に共有はあったが、皆は思い思いの体験をし学んだようであった。
特に麗日殿は拳法の達人の如く、気を巡らせ心身共に成長したようだ。
「ま、一番変化というか大変だったのは…お前ら四人だな!」
上鳴殿の声掛けにより、話題の矛先が俺達に向いた。
「そうそう、ヒーロー殺し!」
「命あって何よりだぜマジでさ。」
「…心配しましたわ。」
思いの外、心配させてしまっていたらしい。
あの場にエンデヴァー殿が来なければ、確かに揉み消す事は叶わなかった。
焦凍の咄嗟の判断に感謝する他無い。
尾白殿が、ニュースで見た考察に慄いたそうだ。
ヒーロー殺しが敵連合と繋がっていたのではないか、と。
USJの頃から繋がっていたのかは定かではないが、そうであったならば確かに恐ろしい。
「でもさあ、確かに怖えけどさ。
尾白動画見た?
アレ見ると一本気っつーか、執念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」
上鳴殿が放ったその言葉を聞いた出久が、思わず声を掛ける。
それの意味に気付いた上鳴殿は、罰が悪そうに天哉の方を見た。
しかし、天哉は左腕を眺めながらも、その意見に否定はしなかった。
ステインの信念を格好良いと思う者もいるであろうという事を、殺意を向けられた本人が一番理解出来たのだ。
ステインの間違ってしまった所は、理想と現実の差に絶望し、粛清という形でそれを変革させようとした所だ。
天哉の意見に、俺は静かに頷く。
「俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも!!
改めてヒーローへの道を俺は歩む!!!」
真っ直ぐに伸ばされた右手の勢いが凄まじい。
すっかりいつもの調子になった友人を見て出久も嬉しそうにしていた。
そろそろ始業の時間の為、俺も自分の席に戻るか。
やはり職場体験中には無かったこの賑やかさが落ち着くな。
さて、授業の方では皆には新たな発見があった様だ。
ヒーロー基礎学で行われた救助訓練レース。
この授業では遊びの要素も加わり、より早くオールマイト先生の元へ駆けつけた者が勝利、というものらしい。
俺は第二走者の為、第一走者達を液晶で見つめた。
何人かは誰が一位になるか予想している様で、その中には出久の名前が出る事はなかった。
そして、一斉に走り始めると皆が目を丸くした。
あの個性を暴発させていた出久が、空を翔け、誰よりも俊敏に建物を跳んで行っているのだから。
そういえば、あの様な形に嵌らない動きは勝己が得意であったな。
皆が驚き感心し、これは逆転勝利も有りうるかと思われた瞬間。
「流石に足元を留守にしているな。」
ずる、と転落した出久を他所に瀬呂殿が一位を制したのだった。
まぁ、そうは問屋が卸さないわな。