第十六話『決着』
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プロヒーロー達は、この異様な光景に戸惑っていた。
俺が人質に取られたとして、戦闘態勢に入ろうかで忙しなくしている。
そこに喝を入れるのは、脳無と応戦していたエンデヴァー殿だ。
俺は何とか抜け出せないか身を攀じるが余り意味をなさず、しかしエンデヴァー殿に意識が向いたステインは、其方を振り返り立ち上がった。
焼けてしまった目の周りを隠す布が剥がれる。
「贋物…」
その瞬間に膨れ上がるのは、凄まじい殺気。
憎悪、嫌悪。全てが合い混ざった何か。
思わず最悪の事態を考え背筋が凍るが、それと同時に俺の頭はすぅ…と冷静になる。
皆が気圧される、その重圧。
「正さねば ーー…誰かが…血に染まらねば…!
一歩一歩、踏み締めるステインに、俺はゆっくりと立ち上がる。
「来い。
来てみろ、贋物ども。
俺を殺していいのは、
「お主の様な人間も、救けてやりたい…そう思うのは、俺の我儘なのだろうな。」
殺気に押し潰されそうになりながらも、愛刀を構えステインの真正面に立ち塞がる。
それは、友の為。護る者の為。
俺がまだ刀を振る力が残っているのならば、余すこと無く使おう。
しかし、予測していた攻撃は来ず、ステインの様子を確認する。
そして、合点のいった俺は静かに刀を下ろした。
「……気を失っている。」
俺がそう告げると、何人かは金縛りが解けたようにへたりこんだ。
かく言う俺も、今更やってきた恐怖に腕の震えが止まらない。
誰も血を舐められてはいなかった。
なのに、あの場は俺とステイン以外誰も動けなかった。
俺も、正直何故動けたのかは分からない。
ステインの言う”本物の
結果としては、俺は敵に助けられてしまった。
だが、出て来た独り言は随分と素っ頓狂なものだった。
何故か。分からない。
只、助けてくれと聞こえたような……そして、ステインが泣いている様に感じたからだ。
暫くして、警察が到着して脳無達は捕獲された。
ステインもまた、警察が運んで行く。
こうして、一旦だが保須市の事件は幕を下ろした。
一夜明け、保須総合病院で四人は話し合いをしていた。
「冷静に考えると…凄いことしちゃったね。」
「そうだな。」
手や足に包帯を巻かれた3人に対し、俺の怪我は腹部と背中の打ち身と多少の過擦り傷のみ。
腹部に関しても、戦闘服のお陰で深く刺さりすぎていなかった為、他の3人に比べて軽傷だ。
「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって…思っちゃうね。」
緑谷殿の言葉は、確かに的を得ていた。
本気を出していない状態ではあったが、世間を騒然とさせていた凶悪敵相手に大立ち回りをしたのだ。
「僕の脚、これ多分…殺そうと思えば、殺せてたと思うんだ。」
「ああ。俺らはあからさまに生かされた。
あんだけ殺意向けられて、尚立ち向かったお前はすげえよ。」
焦凍の言葉に、俺も続ける。
「救けに来たつもりが、逆に救けられてしまったな…。すまぬ。」
「いや…違うさ、俺は ー…」
飯田殿の言葉を遮るように、病室の扉が開き来訪者が現れた。
「おおォ、起きてるな怪我人共!」
「ブシドウも元気そうでなによりだなぁー。」
グラントリノ殿にマニュアル殿、そして俺の職場体験先の先輩、コガラスマル殿が病室に入ってくる。
積もる話もあるのだが、それより来客がある様で大きな影がぬぅと現れた。
「保須警察署署長の面構 犬嗣さんだ。」
「掛けたままで結構だワン。」
犬の顔をした署長殿が、何と態々俺達の病室に訪れたのだ。
そして、戸惑う俺達を他所に訪れた理由を淡々と述べていく。
先人達が築き上げて来た規律を、俺達は堂々と破ってしまった。
”資格未取得者”が、保護管理者の指示なく”個性”で危害を加えた事。
それは、例え相手が凶悪敵ヒーロー殺しだとしても、立派な規則違反なのだ、と。
俺達4名とその訪問先であるプロヒーロー4名、合わせて8名には厳正な処分を下さなければならない、という現実。
それに待ったを掛けたのは焦凍だった。
「飯田が動いてなきゃ、”ネイティブ”さんが殺されてた。
緑谷と大和が来なけりゃ、二人は殺されてた。
誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。」
緑谷殿が制止しようとするも、焦凍は未だに訴える。
「規則守って見殺しにするべきだったって!?
結果オーライであれば規則などウヤムヤで良いと?
ー …人をっ…救けるのが、ヒーローの仕事だろ。」
最後の方は少し勢いが落ちてしまったが、言いたい事は言い切ったらしい。
「だから…君は”卵”だ、まったく…。
良い教育をしてるワンね。雄英も…エンデヴァーも。」
焦凍の言葉に面構殿は挑発じみた言葉を零す。
それにカチンときた焦凍を、俺と飯田殿は止めようとするが、それより早くグラントリノ殿が焦凍を止めた。
「以上が ーー…警察としての意見。
で、処分云々はあくまで、
曰く、公表すれば世間から俺らは褒め讃えられる。
しかし、規律を乱した相応の処罰を受ける事は免れない。
一方で公表しなかった場合、ステインの火傷跡からエンデヴァー殿を功労者として擁立してしまえる事も出来る。
これは、目撃者も極めて少ないからこそ出来る荒業。
だからこそ、俺達の
「どっちがいい!?一人の人間としては…前途ある若者の”偉大なる過ち”に、
此方に親指を立て舌を出す面構殿に、マニュアル殿はがくりと肩を落とす。
「まァどの道、監督不行届で俺らは責任取らないとだしな。」
「申し訳ございません…。」
「よし!他人に迷惑かかる!
わかったら二度とするなよ!!」
飯田殿はマニュアル殿に謝罪し、それを手刀のみで許す姿を後目に、俺達は面構殿に深々と頭を下げ、この件を任せる事にした。
「
面構殿も俺達に深々とお辞儀をし、こうしてこの事件は人知れず終わりを迎えたのだった。
只、その影響もまたじわりじわりと人知れず、俺たちの周りを蝕んでいたのだ。