第十六話『決着』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「氷に、炎。
言われたことはないか?
”個性”にかまけ挙動が大雑把だと。」
ステインの猛攻は止まる事無く、焦凍が両方の個性を使っても避けられてしまう。
あまつさえ、次の瞬間にはステインの手入れの行き届いてない刀が、焦凍の目の前へ迫っていた。
「化けモンが…」
「焦凍!!」
焦凍の元へ跳ぼうとした瞬間、そのもっと奥で飯田殿が立ち上がり駆け出していた。
「レシプロ…バースト!!」
一瞬で2人の元へ行き、そして凄まじい速度のまま、ステインの刀を蹴り折った。
そして空中で1回転した飯田殿は、そのままステインと焦凍を切り離す。
飯田殿の復活に、緑谷殿は破顔した。
「飯田君!!!」
「解けたか。意外と大したことねぇ”個性”だな。」
依然、飯田殿の表情は暗い。
俺はステインの方を警戒し、抜刀の構えを解かずにいる。
「轟君も緑谷君も、西椋君も…関係ない事で…申し訳ない………。」
「また、そんな事を…。」
前を見据えた飯田殿は、悔しそうな苦しそうな、それでいて決意に満ちた顔をしていた。
「だからもう、三人にこれ以上血を流させるわけにはいかない。」
何処か遠い所で、刀の切っ先が落ちた音がした。
「感化され、とりつくろおうとも無駄だ。
人間の本質はそう易々と変わらない。
おまえは私欲を優先させる贋物にしかならない!
誰かが正さねばならないんだ。」
怒りを露わにするステインに、俺達の心は少しずつ冷静さを取り戻していく。
「時代錯誤の原理主義だ。
飯田、人殺しの理屈に耳貸すな。」
「いや、言う通りさ。
僕にヒーローを名乗る資格など…ない。
それでも…折れるわけにはいかない…。
俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう。」
肩から流れる飯田殿の血液は、まるで涙の様に地面に染みを作った。
「論外。」
怒りが沸点に達したのか、はたまたまだ1人も仕留められていない現状に焦っているのか、ステインが本気を出して来た。
その異様な空気に、プロヒーローが思わず撤退を提案する。
しかし、焦凍の言う通り撤退する隙が見当たらないのだ。
その執着心に、思わず息を飲む。
焦凍が炎を出して応戦している間、飯田殿は焦凍に足を凍らせて貰うよう伝える。
一体何をするつもりだろう…しかし、その思考は銀の一閃によって中断される。
ーーキィッン!
焦凍に向かって投げられた小型の刃物を、愛刀で弾く。
しかし、2投目に来た短刀は愛刀の距離が及ばず、飯田殿の腕に突き刺さった。
そのまま地面に倒れ伏す飯田殿に、俺と焦凍が声を掛けるが、飯田殿は要求を続けた。
焦凍は飯田殿の脚を凍らせ、俺はその間に来るであろうステインの攻撃を警戒する。
俺と焦凍の後ろの方で、緑谷殿と飯田殿は傷付きながらも立ち上がり、そして……跳び上がった。
「「行け」」
俺と焦凍が、2人を見つめる。
強烈な拳と蹴りが、ステインの全身に放たれた。
一瞬意識が飛んでいたステインだったが、すぐさまその眼が開かれる。
それにいち早く気付いたのは、飯田殿だった。
「おまえを倒そう!今度は…!
犯罪者として ーー…」
「畳みかけろ!!」
「ヒーローとして!!」
焦凍の炎がステインの顔面を焼き、飯田殿の蹴りがまた空中で炸裂する。
落下を緩やかにする為、焦凍は氷の坂を作り2人を此方側に引き戻す。
まだ安心出来ない、俺も神経を張り巡らせたままだ。
しかし、氷柱に引っ掛かったステインは、そこから起き上がる事は無かった。
「………さすがに、気絶してる…?っぽい…?」
緑谷殿の分析に、俺達は一旦息を吐き警戒を解いた。
「じゃあ拘束して通りに出よう。
なにか縛れるもんは…、」
「念の為、武器は全部外しておこう。」
てきぱきとステインを拘束し、腕を怪我していない俺がステインを引く。
暗く狭い路地から、漸く通りに出る事が出来た。
「さすがごみ置き場。あるもんだな。」
「西椋君、やはり俺が引く。」
「飯田殿は腕を負傷しているだろう。」
プロヒーローが緑谷殿を背負い、自責の念を述べるが緑谷殿はそれを否定した。
確かに1体1で騙し討ちされた場合、ステインの個性は強過ぎる。
「四対一の上に、こいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた。」
「緑谷殿の復活時間を予測出来ていなかったからな。
飯田殿の攻撃はともかく…緑谷殿の動きに対応し切れていなかった。」
通りに出ると、何時ぞやで見たご老人が道路の向こう側から顔を出した。
ぐらんとりの、と緑谷殿が何度か呼んでいてその度に説教をされている。
成程…このご老人がグラントリノ殿か。
その数秒後にプロヒーロー達が現着し、俺達の怪我の具合とお縄に着いたステインを見て、驚愕の表情を浮かべていた。
エンデヴァー殿はまだ脳無達と交戦中のようで、有効打にならないヒーローが此方に回って来たらしい。
「………三人とも…僕のせいで傷を負わせた。
本当に、済まなかった…。
何も…見えなく…なってしまっていた………!」
深々と下げる飯田殿の頭を、俺達3人は眺める。
「……………僕もごめんね。
君があそこまで思いつめていたのに、全然見えてなかったんだ。
友だちなのに…。」
「俺も、……最後の最後まで、言葉を探してしまっていた…。
負担を軽く出来ず、申し訳ない。」
その言葉に、飯田殿はぶんぶんと首を横に振る。
その度に涙が散っていった。
「しっかりしてくれよ。委員長だろ。」
「……うん…。」
焦凍の言葉に、飯田殿は漸く涙を拭う。
この戦いは、時間でいえばほんの5~10分くらいの戦いであったが、俺達にとっては凄まじく長い戦いの様に感じた。
何処かで、大きな翼を羽ばたかせる音が聞こえる。
その方向を見ると、有翼の脳無が此方に向かって来ていた。
向かう先には、緑谷殿。
俺は縮地で緑谷殿の元へ跳び、緑谷殿を突き飛ばす。
代わりにやって来るのは、背中に感じる掴まれる感覚と、浮遊感。
「西椋君!!」「大和!!!」
「…っく!」
掴まれた角度が悪く、斬ろうにも刀が届かない。
庇ったはいいが、少しばかり無策が過ぎたか…。
どんどん地面から離れて行く俺は、少しばかり肝が冷えた。
しかし、何があったのか脳無が急に動きを止める。
まさかー…
「偽物が蔓延るこの社会も、
脳無の頭部に刃物を突き刺し、俺を傷に触れぬよう抱えながら地面へ着地したのは、先程まで対面していたヒーロー殺しステインだった。
「全ては、正しき…社会の為に…」
息も絶え絶えになりながら、俺を救ったステインの目は…暗く、底が見えない。
彼には一体何が写っているのだろう。