第十四話『蠢く』
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不安や緊張が入り交じる中、遂に職場体験当日となる。
雄英の最寄駅である、この大きな駅で1-Aの皆は戦闘服の鞄を持ち一塊になっていた。
「コスチューム持ったな。
本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。
落としたりするなよ?」
「はーい!!」
「伸ばすな。"はい"だ芦戸。
くれぐれも失礼のないように!
じゃあ行け。」
相澤先生の諸注意が終わり、皆が散り散りになる中、俺は焦凍に声を掛けられた。
「大和はどっち方面なんだ?」
「ふむ…途中山手線に乗り換えて、あー…この駅の近くの喫茶で待ち合わせだそうだ。」
俺は先方に渡された地図と、事前に姉上が調べてくれた路線図を見つつ答えると焦凍は此奴大丈夫か…?と言わんばかりの顔をした。
……何だ。初めての駅であっても俺はしっかり辿り着いてみせるぞ。
「…俺は少し反対方向だから一緒には行けないが、何かあったら駅員に声掛けるんだぞ大和。」
「む。」
少しカチンと来たが、俺は寛大な心で受け取っておく。
心配しなくとも都市部での移動であるし、何人かは都内の様だから着いて行けば心配ないだろう。
「む、飯田殿!」
「…西椋君。」
目的地に向かう電車のホームで飯田殿に出会う。
詳しく聞くと、丁度俺がややこしいと思っていた所までは一緒に行けそうなので同伴する事にした。
揺れる車内で口数も無く隣同士に座る。
俺は、飯田殿をちらりと見るとある事に気が付いた。
飯田殿の目の色が、以前の焦凍と似た色になっている事に。
嫌な、予感がする。
その色は復讐や憎悪の色だ。
昨日調べた事が頭を過る。
止めなければ。…しかし、俺が言って止まるのか?
焦凍を救う事が出来なかった俺が、飯田殿を救えるのか?
そう思って、その場で頭を抱えたくなる衝動を拳をぐっと握る事で耐える。
しかし、大きなお世話だと苛立たれてもいい。
俺は、意を決して口を開いた。
「飯田殿。…独りでは、無いからな…。」
「!」
飯田殿の膝に置かれた手を、俺はそっと握る。
他にも言いたい事はあったはずだが、何とか振り絞った言葉がそれだった。
暫くその手を飯田殿は見つめていたが、降りる駅に着いてしまった様で勢い良く立ち上がる。
俺は不安を感じながらも飯田殿を見送った。
「西椋君……、ありがとう。」
「…共に頑張ろう。」
閉まる電車の扉の向こうで、飯田殿が少しだけ口を動かした様に見えたが、流石にこの人混みでここまで言葉は届かなかった。
だが、『すまない。』そう動いている様に感じた。
何に対してのすまない、なのだろう。
心配させて、か。…或いは、俺の言葉に背く事をする、という意志だろうか。
やっと飯田殿に言葉を掛けられたと思ったが、内心穏やかでは無く、気持ちの晴れぬまま、俺は待ち合わせの最寄駅に着いたのだった。
駅から歩いて凡そ5分。
少しばかり路地の入り組んだ所にその喫茶はあった。
恐る恐る扉を押すと、からんからんと内側上部に取り付けられた鐘が来客の音を告げる。
「いらっしゃい。」
立派な口髭と鼈甲の老眼鏡が特徴的な白髪混じりの店主が、カウンターの向こうから穏やかに声を掛ける。
俺はそれに一礼をして、カウンター席の奥から3つ目に座る。
かちこち、と壁掛けの古めかしい時計が時を刻み、店主の奥に佇む食器棚には趣向を凝らした古美術の器達が並んでいた。
その雰囲気に、俺は一度唾を飲み込む。
場違いな感じを払拭する様に、俺は店主に目を合わせた。
「…熱い焙じ茶を、一つ。」
「畏まりました。」
……この席も注文内容も、先方から指示されたものだ。
どうやら先方は秘密主義の様で、待ち合わせの際には『合言葉』としてこの方法を取るらしい。
暫くして、湯気を立たせた焙じ茶が俺の前に置かれる。
それと同時に、隣の席に気配を感じた。
「西椋 大和殿とお見受け致す。」
「! …はい、雄英高校一年A組に所属している西椋大和です。
この度はご指名誠に有難う御座います。
プロヒーロー、エッジショット殿。」
横を見ると、化粧なのか変装なのか、ホームページで見た顔とは違う髪色と顔付きで、まるで一般人の様であった。
一瞬エッジショット殿では無い可能性を思案したが、それも杞憂に終わる。
ードロンッ!!
音と共に煙が吹き出し、俺は思わず軽く咳き込む。
煙が晴れると、そこにはヒーローとして活躍しているエッジショット殿が凜然と立っていた。
「此方こそ、指名に答えてもらい感謝する。
先の体育祭で、主の活躍をこの目で確と見させて頂いた。」
鋭くも力を抜き少しだけ細められた目元に、歓迎されている気配を察する。
「この歳でほぼ完成された個性、そして判断力やセンス、戦闘力は飛び抜けている。
主を一目見た時に正直感服した。」
「有難く…否、俺は未だ未熟者です。
今回の職場体験では、体験した事総て自身の血肉とさせて頂きます。」
お互いに、俺はそれより深く礼をして丁度良い温度になった焙じ茶を飲み干す。
勘定を机に置き、先へ行くエッジショット殿の後を追いかけた。
しかし、店を出る途中で俺は素早く後ろに回られた。
布で目隠しをされて、びくりと大きく肩が跳ねる。
「!?」
「俺の事務所は幾つかあって、その内の一つに案内するが場所は秘匿にしている。」
さ、流石秘密主義…。
成程と頷いた途端、ふわりと俺の体が地面から離れエッジショット殿の腕が腹回りに回され、ひょいと俵担ぎされる。
プロヒーローの思い切りの良さに、もうどうにでもなれ…と大人しく担がれた状態で、俺達は喫茶を離れたのだった。