第十三話『名前をつけてみようの会』
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そして、その翌々日。
体育祭の疲れも癒え、家族に再び送り出される。
父上や母上、姉上にもそれぞれ言葉を頂き、俺は焦凍と共にいつも通り駅へ向かう。
「焦凍、面会…してきたのだろう?」
「ああ。…赦して、もらえた。」
「……そうか。」
俺等の口数は、決して多くはなかったがそれだけで充分だった。
こうして一つずつ、ゆっくりと精算していってほしい。
電車に乗り、満員電車の中で雄英の最寄駅を待つ。
以前の痴漢事件から焦凍は俺を角の方に立たせたり、椅子に座らせたりと徹底している。
今日は偶々席が一つあった為、俺は焦凍に無理矢理座らされていた。
目の前に吊革に捕まる焦凍が、何が楽しいのか呑気な顔で俺を見つめる。
「なぁ、大和…。」
「なん、」
だ…と言いかける前に、隣にいた携帯を眺めている社会人の男性が、此方を勢い良く向く。
「も、もしかして轟焦凍君と西椋大和君!?」
その言葉を皮切りに、電車に乗る殆どの者が此方へ注目した。
「えっ、今年の1年体育祭、No.2とNO.3?!」
「ヤバい!テレビで見るよりイケメンじゃん!!」
女性の何人かが、瞬時に手鏡で己を見つめ直す。
そこまでしなくても大丈夫だと思うのだが…。
「嘘…!大和君この電車に乗ってたんだ…!超ラッキー!!」
「轟君と仲良しって噂、本当だったんだー!」
「うひょー!あの侍少年を生で見れるとかすっげェ!!」
姦しくなってきた車内で、俺は困惑するが置かれている立場を一瞬で理解出来た。
成程、雄英体育祭…テレビに映るというはこれ程までに影響するのか。
だが、焦凍は体育祭以前からこういう視線を向けられていたのだろう。
俺よりも大分落ち着き払っていた。
「あの、あの!応援してるので、これからも頑張ってください!」
スーツを着た女性が俺と焦凍に向かい、そう声を掛ける。
俺はそれに月並な言葉だが、有難う御座いますと返し焦凍は軽く会釈した。
そうこうしていると、最寄駅に着き俺等電車を降りる。
サインを強請る声を丁重にお断りし、学校へと急ぐ。
「有難い事ではあるが、こうなると通学が難儀になりそうだな…。」
「大体1週間くらいで収まるから大丈夫だろ。」
焦凍は余り気にしていない風にしているが、俺は注目されるのに慣れない故に少しだけ憂鬱になってしまった。
教室に入り挨拶を交わしていくと、自然と会話は『その話』になる。
「西椋は大丈夫だったか?一気にファンとか増えただろ!」
「切島殿買い被り過ぎだ…。
だが、面と向かって応援している、と言われたら身が引き締まるな。」
その言葉に切島殿は拳を作り、やっぱ漢らしいぜ…!と感激している。
しかしHRの時間が近付いているのに瀬呂殿が気付き、切島殿を呼んだ。
じゃあな!と自身の席に戻って行く切島殿を見送り、俺も教科書等の身支度を済ませ先生を待った。
教室は未だ、わいわいと賑やかである。
その日常に少しだけ、心が軽くなった。
「おはよう。」
鐘が鳴る音と共に入って来た相澤先生に、皆が席に着き静まり返る。
現れた相澤先生は休校の二日間で包帯が取れた様で、梅雨殿は心做しか嬉しそうにしていた。
「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。
んなもんより今日の"ヒーロー情報学"、ちょっと特別だぞ。」
"ヒーロー情報学"、ヒーローとして働くにあたり必要となって来る法律や公約等を学ぶ授業である。
特別という事は…小テストか何かだろうか?
そう思っていると、相澤先生の口から出た言葉に皆が湧き上がった。
「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ。」
「胸ふくらむヤツきたああああ!!」
賑やかになる教室を、相澤先生が静かな怒りを見せる事で一気に沈黙させる。
流石相澤先生、扱いに慣れているな。
「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。
指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2、3年から…。
つまり今回来た"指名"は、将来性に対する"興味"に近い。」
その"興味"が卒業までに削がれてしまったら、プロからの一方的なキャンセルというのはよく有る話だそうだ。
成程、飽和するヒーロー社会はこういった災難もあるのだな。
しかし、その頂いた指名が自身の高みになるのかと思うと俄然気を引き締めなければ。
そして、体育祭後の指名の集計結果が相澤先生によって発表される。
「例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った。」
液晶に映し出される表には、長く伸びる棒が三つ。
一番長いのは焦凍で、三番目に長いのは勝己だ。
そして、その間に伸びる二番目に長い棒は…俺。
『西椋 3,840』この数字に俺は目を丸くした。
この数が、俺に興味を持った人達の数…。
焦凍の4,123件も勝己の3,556件も素晴らしい数字だ。
歓喜する者、悔しがる者…各々の反応する中、俺は後ろの席の葉隠殿に、肩を高速で叩かれ祝われていた。
「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。」
「!!」
職場体験…成程、それでヒーロー同士に呼ぶ際のヒーロー名が必要になってくるのか。
俺達は敵の襲撃を受けてしまったが、例年ではこの時期に本職の方々の活動を体験して、自身の力にしていくのだな。
「まァ、仮ではあるが適当なもんは…。」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
扉が開かれ、かつかつと靴音を鳴らしながら入って来るのは、相変わらず目のやりどころに困るミッドナイト先生だ。
「この時の名が!
世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」
「まァ、そういうことだ。
その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。
俺はそういうのできん。」
相澤先生がごそごそと教卓から寝袋を取り出しつつ、俺達に説く。
「将来、自分がどうなるのか。
名を付けることでイメージが固まり、そこに近付いてく。
それが『名は体を表す』ってことだ。
"オールマイト"とかな。」
ふむ、名は体を表す…。
俺がこれからどの様なヒーローを目指したいか、名前から表していくというのもいいな。
渡された油性ペンと札を後ろに流しながら、早速俺は考えを巡らせる事にした。