第十一話『奮え!チャレンジャー』
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次の試合…は、言葉にするとすれば『瞬殺』の一言に尽きる。
上鳴殿とB組の塩崎殿の対決は、それ程までに呆気なく終わった。
試合開始直後、全力で放電をした上鳴殿を自身の茨で拘束し、塩崎殿の周りは茨で壁を作り防御する。
完膚無きまでに、上鳴殿を倒した彼女に俺は思わず「おぉ…」と声を出してしまう。
後ろを振り向くと瀬呂殿が戻って来ており、俺は控え室に行く間際肩を叩く。
「瀬呂殿、中々の戦略だったぞ。」
「西椋…!」
瀬呂殿が何やら言いたげではあったが、俺は会場を離れ控え室へ向かった。
控え室に着くと、液晶に飯田殿とサポート科の発目殿が映っていた。
何やらごちゃごちゃと色々体に付けているが、一体何が始まるのだろう?
試合開始となり、飯田殿が駆ける。
しかし、それに対して発目殿はマイクを使い、己の開発した道具を解説しだした。
周りが混乱する中、飯田殿の速さを物ともせず商売根性逞しい演説は大粗相十分位続いた。
何と滑稽な鬼ごっこだったか…。
飯田殿の善意を全力で利用した発目殿は、満足そうに場外へと出た。
「1-Aの西椋 大和、準備してくれ。」
扉を開けると、1-Bの担任であるブラドキング先生がいた。
軽く礼をしてから、会場へ続く廊下を歩く。
どくんどくんと早る鼓動を抑えながら、一度大きく深呼吸をした。
御相手は芦戸殿。
酸を使った攻撃は、中距離近距離と共に脅威である。
そして、芦戸殿自身の身体能力は素晴らしいものだ。
これをどう立ち回るか、心·技·体そして、知恵知識を俺はどう活かそう。
そう思いながら進んで行くと、俺は会場の歓声に包まれた。
『元気に跳ねて酸も散らしてけ!
ヒーロー科、芦戸三奈!!』
芦戸殿が舞台に上がり、観客席に手を振っている。
天真爛漫な姿は正しく輝かしいヒーローの姿だ。
『SAMURAI Boy!これ負けたりしたら今度小テストな!!
同じくヒーロー科、西椋大和!!』
マイク先生の紹介に、俺は思わず目を丸くして実況席を見てしまう。
…っく、マイク先生め…盛大ににやけておる。
相澤先生も小刻みに震えているので、きっと笑いを堪えておるのだ。
……愉快におちょくられてもめげんぞ。
『START!!!』
マイク先生が高らかに宣言した瞬間、芦戸殿が酸を右腕に纏わせながら、此方へ攻撃してくる。
腕を振るい飛ばしてくる酸の飛沫を軽く避け、愛刀を引き刃へと変えた。
「やっぱ西椋には当たんないかぁ!」
「其方も、俺を近付けさせないではないか。」
絶えずに酸を繰り出し飛ばす芦戸殿に、俺は避けながらもじりじりと間合いを詰めようとする。
しかし芦戸殿も狙いに気付き、一定の距離を保たれた。
酸が地面を溶かし、特有の臭いと煙が舞う。
尚も続く攻防に、周りは大いに盛り上がっていた。
『芦戸の酸ラッシュに物ともせず!!
西椋は防戦一方だが余裕の表情だ!
何だあの避け方!NINJAかよ!!』
『まぁ、二人共運動神経抜きん出てるからな。
近距離型の西椋が、どう立ち回るかだろ。』
マイク先生の実況もついつい熱が籠るようだ。
それとは反対に、相澤先生は努めて冷静に解説していた。
暫く防戦一方だった俺は、一旦刀を鞘に収め、少し遠いながらも居合の構えを取る。
「そっからじゃあ!刀届かないでしょ!」
芦戸殿は両手一杯に酸を溜めて、大きく腕を動かし、盛大に酸を此方へ撒き散らす。
俺はその腕を振り上げた隙に、縮地で芦戸殿の目の前に現れた。
「ぅえ!?」
刀は抜かずに、俺は縮地中に脱いだ体操服の上着を自身の片手に巻き、酸が溢れている芦戸殿の腕を掴む。
体操服が溶け、後ろでは芦戸殿が繰り出した大量の酸が地面に落ち、凄まじい音がした。
そして、少しぐんと腕を引いた後手を離し、とんと芦戸殿の肩を押すと、よろけ踏鞴を踏んだ足先は場外の線を出ていた。
「ウソッ!?」
「すまんな芦戸殿。」
一進一退かと思われていた先程の攻防だが、俺は密かに少しずつ芦戸殿を後退させていた。
何度も大きく色々な方向に避け、俺にしか注目させない事で、刀を構えた俺と芦戸殿との間合いだけを考えさせる事に成功したのだ。
現在の芦戸殿の立ち位置、それを気付かせない様、ぎりぎりまで間合いに届かない中距離を保っていた。
「芦戸さん場外!西椋君、二回戦進出!」
『西椋!!二回戦進出だってよー!!』
先生達の声に、芦戸殿はハッと我に返り手足をじたばたさせた。
「あーー!悔しいーー!!」
「…芦戸殿の中距離攻撃は中々骨が折れたぞ。」
そう声を掛けると、芦戸殿が此方をまじまじと見つめる。
「………西椋って、意外とバッキバキに鍛えた体してんね。」
「…鍛えてはいるが、俺は着痩せするらしい。」
突飛な発言に思わず苦笑いするが、何と言うか芦戸殿らしい。
お互いに握手をし、会場が拍手と歓声に包まれる中俺は舞台を降りた。
芦戸殿を掴んだ手の方を見ると、多少赤くはなっているが怪我はなく、体操服の犠牲だけで済んでいた。
一応酸を完全に落とす為、水道場で手を洗っておく。
ブラドキング先生に声を掛けられ振り向くと、袋に包まれた真新しい体操服があった。
「有難う御座います。」
新しい体操服を着てクラスの観客席に戻ると、皆が軽く声を掛けてくる。
それに応えながら、俺は金属音が響き渡る会場に目を向けた。
切島殿と、B組の鉄哲殿だったか。
液晶のトーナメント表を見ると、常闇殿と八百万殿の対決は、常闇殿の勝利で歩を進めていた。
となると、俺の次の御相手は常闇殿だな…。
常闇殿も中々の強敵故、気が抜けぬ。
思考の海に沈んでいる間も舞台の二人は殴り合い、熱い闘いは続いている。
「二人共素晴らしい根性だ。」
「いやぁ暑苦しいわー。」
近くに居た上鳴殿がからからと笑っているが、その直後お互いに重たい一撃が入り舞台に倒れる。
『個性ダダ被り組!!鉄哲VS切島、真っ向勝負の殴り合い!!
制したのはーー』
「両者ダウン!!引き分け!!」
まさかの引き分けとなり、観客席では二人を高く評価する声が上がる。
この二人は、休憩後に腕相撲で勝敗を決する様だ。
熱い名勝負に俺は拍手を送った。
次に舞台に上がってくる二人に、1-Aの女子生徒達は恐々としていた。
一回戦最後を飾る勝負は、爆豪殿と麗日殿。
各々気を引き締めた顔付きで、舞台に並んだ。
きっと爆豪殿は、相手が女子だろうと容赦する事はないだろう。
だからこそ、俺はこの勝負に目を離せなかった。
誰かが唾を飲み込む。
それと同時に、開始の合図が響き渡った。