第十話『策策策』
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そうして、棄権した二人の分として繰り上がりでB組の鉄哲殿と塩崎殿がトーナメントに加わり、くじを引く事になる。
俺の第一試合は、芦戸殿が相手となった。
「おっ、西椋とかぁ!よろしくね!」
「あぁ。宜しく頼む。」
お互いに挨拶を交わし、取り敢えず解散になった。
そのままレクレーションへと移るが、俺は一度精神統一をする為会場の外に出る。
会場の裏手にある雑木林で、座禅を組み深呼吸をする。
焦凍の事、尾白殿の事、そしてこれからの事…諸々の邪念を払い心を無にした。
暫くそうしていると、誰かが歩いてくる気配を感じ目を開く。
「大和。」
いつもの様に、俺の名を呼ぶ焦凍が少し先に立っていた。
ざぁっと吹いた風が、焦凍と俺の髪を掻き乱す。
「…焦凍、どうした?」
「別に。たまたま歩いてたら、大和がいただけだ。」
そう言いながら焦凍は俺の隣に座る。
俺は焦凍にゆっくりと視線を合わせた。
「……やっぱり、俺のこの狂った人生で、大和だけは変わらない。」
「…どういう事だ?」
焦凍は此方を見る事はなく、真っ直ぐに地面を見つめていた。
その目には、先程過去を語っていた時の暗いものは見受けられない。
「…何でもねぇ。ただ、これからもそのままで居てくれ。」
それだけ言って焦凍は立ち上がり、去って行った。
何だったんだ…と思いつつも、携帯の時計を見やるとそろそろレクレーションが終わる時間になっていた。
俺も立ち上がり、会場へと戻る為に足を動かした。
やるからには、真剣勝負だ。
何事にも悔いの残らない様、ひたむきに挑戦しよう。
席に戻ると会場の中央には、セメントス先生によって立派な闘技場が出来上がっていた。
『ヘイガイズ、アァユゥレディ!?
色々やってきましたが!!
結局これだぜ、ガチンコ勝負!!』
マイク先生の実況に、観客は大いに盛り上がる。
闘技場の四方に燃える松明が、その歓声に炎を大きく揺らした。
『頼れるのは己のみ!
ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!
心・技・体に知恵知識!!
総動員して駆け上がれ!!』
第一試合は…緑谷殿と心操だったか。
二人が闘技場に現れ、マイク先生の実況にも熱が籠る。
ルール説明を聞く限り、行動不能にするか「参った」と言わせれば勝ち、という単純なもの。
行き過ぎる行為は止められるが、怪我等はリカバリーガール殿が治す為思う存分やれとの事だった。
……さて…この勝負、どうなるだろうか。
胸が高鳴る中、始まった緒戦。
マイク先生の実況に被って聞こえなかったが、心操殿の言葉に緑谷殿が『応えて』しまったのだけは分かり、思わず席を立ち上がる。
尾白殿も頭を抱え嘆いているが、緑谷殿は一向に動かない。
『緑谷、完全停止!?
アホ面でビクともしねえ!!
心操の"個性"か!!?』
皆が心操殿の個性に騒然とする中、解説の相澤先生が資料を片手に説明する。
「そう言えば、西椋はどうやってアレ解いたんだ?」
切島殿に呼び掛けられ、皆が此方を向く。
それに対して俺が出た答えは…。
「…気合、だな。」
「男らしいが過ぎる!!!」
あの現状を口で説明するのはどうにも難しい。
どうしても回答が大雑把な物になってしまった。
"洗脳"という個性、対人では輝くが如何せん入試のロボット相手ではポイントが稼げない。
俺が騎馬戦で予想していた事が的中し、心操殿が俺に対して言った言葉を思い出す。
「おまえは…恵まれてて良いよなァ。
緑谷出久。」
そうぽつりと呟き、緑谷殿に場外へ出る様命令をする。
その命令に緑谷殿は踵を返し、場外へと進んで行ってしまう。
後一歩、皆が見守る中緑谷殿を中心に爆風が起こる。
『緑谷!!とどまったああ!!?』
苦しそうに息をする緑谷殿の指先は、またしても折れて変色していた。
「すげえ…無茶を…!」
尾白殿が呟き、俺もそれに頷いた。
緑谷殿…お主は何回指を折れば気が済むのだ。
焦り始めた心操が言葉を投げ掛けるが、緑谷殿は必死に応えない様にしている。
緑谷殿が近付いて行く度に、二人の表情は険しくなり心操殿の心の内が露呈して行く。
取っ組み合いになって、心操殿が緑谷殿の顔面を押す。
その瞬間、緑谷殿に掴まれ心操殿は綺麗に宙を舞った。
ダン!!と叩きつけられた心操殿の踵が場外に出る。
「心操くん場外!!
緑谷くん、二回戦進出!!」
試合が決し、観客から歓声が上がる。
緑谷殿は個性を使わず、経験からあの形に誘い込んだのだ。
上手く立ち回ったが、まだ個性を何処でどの様に使うのか探り途中なのだろう。
お互いに苦い顔をしたままだが、心操殿が闘技場を降りる際、普通科の生徒から声が上がった。
それは、心操殿への激励と賞賛。
そしてプロヒーロー達の高評価。
俺は、それが耳に入り思わず笑みを作る。
心の底から、これから歩き出そうとする心操殿に拍手を送った。
さて…次の試合は、焦凍と瀬呂殿か。
二人が闘技場に現れ、会場全体が注目する。
瀬呂殿は初めは苦い顔をしていたものの、速攻でテープを焦凍に巻き付け場外へと引っ張る。
しかし、突如現れた氷山と言っても過言ではない氷結に、皆が言葉を失った。
「…………や、やりすぎだろ…。」
凍り付いた瀬呂殿が行動不能を宣言し、焦凍の勝利となる。
周りからわき起こった"どんまい"の呼び掛けに、俺は苦虫を噛み潰した様な顔をする。
瀬呂殿の戦闘法は、間違いでは無かった。
寧ろ攻撃が大雑把になりやすい焦凍の隙を、上手く突いた攻撃だった。
だが、相手の『格』が違い過ぎると言わんばかりのこの会場の雰囲気が、俺はどうにも釈然としなかった。
もっと瀬呂殿に掛ける言葉があるだろうに。
瀬呂殿が席に戻って来たら、入れ違いになるかもしれんが一声掛けておくか。
……それにしても、焦凍は何故あんな大技を初手に出してきたのだろう?
まるで八つ当たりの様な攻撃方法に、唯一思い当たる人物を思い浮かべる。
……否、だからと言ってこの試合は無いだろう。
氷を溶かし会場を元に戻す焦凍を見ながら、俺は胃の中をもやもやとさせ、振り切る様に次の試合へ意識を向けたのだった。