第十話『策策策』
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死に物狂いでやればどうにかなるものだな…。
精神に影響してくる個性に初めて遭遇したが、敵だと厄介だが味方には心強い。
騎馬戦で俺達の組は三位という結果を残せた。
今マイク先生の実況で知ったが、彼は心操という名前らしい。
「…ご苦労様。」
それだけ言って離れようとする心操殿を、思わず引き止める。
「…何。」
「心操殿、思わず俺も一杯食わされてしまった訳だが、お主は中々の強者だと思うぞ。」
その言葉に、はぁ…?と良く分からない返事をされるが俺は更に続ける。
「自信を持て。お主のヒーローになった姿、俺は楽しみにしている。」
「…は!?」
破顔する心操殿を置いて、俺は取り敢えず足を引きずりながらもリカバリーガール殿の元へ向かった。
昼休憩に入ってすぐに足を完治させ、食堂へ向かおうと角を曲がった瞬間、何者かに口を塞がれ壁に縫い付けられる。
何事かと驚きながら口を塞ぐ手を目で辿っていくと、何やら真剣な顔をした爆豪殿がいた。
「ば、くごうどの…?」
「黙ってろ。」
口を少し動かし小さく声を掛けると、此方も小声で返される。
不思議に思っていると、爆豪殿の向こうにある曲がり角の奥から声が聞こえた。
「個性婚、知ってるよな。」
焦凍の淡々とした声に、思わず目を見開く。
俺も詳しくは聞かなかった焦凍の過去を、誰かに話している。
落ち着いて気配を探ると、相手は緑谷殿だと知った。
…何故、今緑谷殿に焦凍は話をしている?
しかし、その疑問は今は置いておく事にする。
淡々とだが、轟家に隠された壮絶な内容に俺は顔を強ばらせる。
それは緑谷殿や爆豪殿も同じ様で、何も言わずに聞いていた。
「記憶の中の母は、いつも泣いている…。
「おまえの左側が醜い」と、母は俺に煮え湯を浴びせた。」
公園で初めて出会った時の、焦凍の母を思い浮かべる。
雪の様に、ふわりと優しく笑う女性だった。
そして、顔の半分を白い包帯で覆い尽くした小さな焦凍も浮かんで来た。
当時の悔しさと虚しさを俺は思い出して、歯を食いしばる。
「クソ親父の"個性"なんざなくったって……いや…、使わず"一番になる"ことで、奴を完全否定する。」
あの時から、暗く澱んでしまった焦凍の瞳を何度も見た。
その度に俺は、どうにか出来ないか考える。
しかし、遂にここまで焦凍は曲がらずに来てしまった…。
緑谷殿の唾を飲み込み、言葉を選んでいる気配を感じる。
緑谷殿は、焦凍の過去に対してどう思い…どう返すのだろうか。
「僕は…ずうっと、助けられてきた。
さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる。」
先の騎馬戦では、俺は我武者羅だったが緑谷殿と焦凍の一騎打ちをしていたらしい。
俺の知らない所で、二人は何やら競い合っている。
「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!」
真っ直ぐに焦凍を見据えた緑谷殿は、拳を握りしめそう宣言した。
その後、二人がその場を去り爆豪殿から解放された俺は、爆豪殿に呼び掛けられる。
「…てめェは知ってたのかよ。」
「……詳しくは知らなかった。」
「…これから殺り合うっつーのに、そんな顔してんじゃねェよ。」
素直にそう言うと、爆豪殿は眉間の皺を更に刻み俺の腕を掴む。
「ば、爆豪殿…何処へ!?」
「飯。」
休憩終了間際に食堂へ滑り込み、奇妙な縁に首を傾げながら机を共にし、俺はおむすびを頬張った。
爆豪殿……豚汁に七味を掛け過ぎではないか?
かくして、昼休憩も終わり全員参加のレクレーションの時間となる。
……のだが、何故か1-Aの女子生徒達が橙色の丈の短い衣装を身に纏っていた。
「……何の余興だ?あれは。」
「知るか。」
席に戻った俺は隣に居る爆豪殿に聞くが、すげ無く返されてしまったのだった。
レクレーションに入る前に、生徒達が集められる。
種目内容は、総勢十六名からなるトーナメント。
一対一の真剣勝負となった。
ミッドナイト先生が説明をしながらくじの箱を掲げ、いざくじ引きというその時、隣にいた尾白殿が真っ直ぐに手を挙げた。
「あの…!すみません。
俺、辞退します。」
「!!」
余りの申し出に皆がざわつく。
「尾白殿…!!何故!」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
尾白殿は顔を悔しそうに歪ませ、ぽつぽつと語る。
「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまで、ほぼボンヤリとしかないんだ。
西椋に救けてもらったけど、多分奴の"個性"で…。」
緑谷殿がちらりと心操殿を見るが、顔を逸らされる。
尾白殿は自身の拳を見つめ、心情を正直に話す。
「皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。
こんな…こんな、わけわかんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない。」
その言葉に、俺は何も言えないでいた。
俺も残り三分まで何も出来なかった。
どうにか個性を解いたものの、足の痛みから余り良い動きを出来たとは言えない。
葉隠殿や芦戸殿がそれぞれ言葉を掛ける。
しかし、プライドが許さない、と語った尾白殿は苦しそうに顔を伏せた。
丈の短い衣装を着ている女子生徒達に疑問は持っている様だが、尾白殿の決意は堅い。
同様の理由で辞退を申し出たB組の生徒、庄田殿に俺は二人を交互に見る事しか出来ない。
「なんだこいつら…!!男らしいな!」
切島殿が感涙している中、ミッドナイト先生は嬉しそうな顔で鞭を振るい、二人の棄権を認めた。
「…御両人。」
「西椋…!ごめん、俺がこんな事言うのはずるいけど、君は絶対に進んでくれ!」
此方に振り向き、尾白殿に両肩を掴まれる。
庄田殿も大きく頷いていた。
「あの中で、何とかして俺を解いてくれた…!
恩人なんだ、だから頑張って欲しい…!!」
「……だが…。」
俺も殆ど何も出来なかった…そういう前に、俺の近くで爆発が起こる。
其方の方を見ると、爆豪殿が目を限りなく吊り上げて此方を睨み付けていた。
「…いいからてめェは大人しく出とけ…!!まだウダウダ言うつもりなら、容赦なくブッ潰してやる…!!」
…余りの気迫に俺は素直に頷くしか無かった。