第十話『策策策』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「上を行く者には、更なる受難を。
雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ。
これぞ
ミッドナイト先生が緑谷殿に容赦なく振り分けたポイントは、これを捕れば大逆転間違いなしの一千万ポイント。
緑谷殿は今、俺に想像付かない様なとてつもない圧力を感じている事だろう。
それ程までにこの受難は厳しいものだった。
ミッドナイト先生の騎馬戦のルール説明は続く。
ポイント制ではあるが、大まかな部分は他の騎馬戦とそう変わらない。
但し騎馬が崩れても退場にならない所が、この競技の肝であろう。
鉢巻を取られても、騎馬が崩れたとしても十五分間はこの舞台で皆が競うのだ。
判断力、瞬発力、交渉術、体力…全てがこの競技の難しさを物語っていた。
「"個性"発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!!
悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!
一発退場とします!」
鞭を振るいながらそう言うミッドナイト先生は、交渉時間の開始を宣言した。
ぴりぴりと張り詰める空気の中、何人かはもう目星を付けている様で、交渉を始めていた。
その一方、現在進行形で俺はとても困っている。
「大和。組むぞ。」
「に、西椋君…!!」
「西椋ゴラァ!半分野郎とデクんとこ行ったら殺す!!」
主に押しが強いのはこの三人か…。
他にも飯田殿や切島殿、尾白殿や常闇殿等ちらほら1-Aの生徒達が話し掛けようとしているのが余計に心苦しい。
…しかし、此処で誤魔化すのも良くないし何より時間が限られている。
「…済まないが、俺は先の障害物競走で足を負傷してしまった。
お主らが求める様な機動性を充分に発揮する事は、出来ないだろう。
…お主らの勝負に負傷した俺が水を差す事は出来んから、他を当たって欲しい。」
正直に話すと、焦凍は何で黙ってた…と言う様な睨み顔をし、緑谷殿は顔を青ざめさせ、爆豪殿はそれはもう盛大に舌打ちをした。
他1-Aの生徒達も聞こえていた様で、残念そうに心配そうに離れて行った。
……よし、心苦しいがこれでいい。
もう一度三人に済まない、と頭を下げ俺はその場を離れた。
…矢張り、歩いていても足を引きずってしまうな。
この様なお荷物でも、高ポイントである訳だし…足を余り使わない騎手として交渉するべきだろうか。
そんな時、不意に呼び止められる。
「西椋 大和。ちょっといいか。」
振り向き、何だ?と声を返した瞬間、俺の意識が体から一気に離される様な不思議な感覚に陥る。
分厚い膜で体と精神が剥離された様な、どうしようもなく不安になる感覚。
ぼやける視界に映るのは、紫色の髪と何処か歪な笑顔を貼り付けるあの放課後で出会った男子生徒だった。
「おまえの事はよく知らないけど、クラスの皆から聞いた。
何で声掛けたかも分かんねえだろうなァ。
…西椋はさ、ムカつくほどに眩しいんだよ。
俺みたいに失敗した奴からすると、恨みたくても人が良過ぎて恨めない…一周回って、イラつく存在なんだ。」
耳元で吐息混じりに彼はそう苦しそうに呟き、俺の体は完全に制御出来なくなってしまった。
「……悪いな。
おまえの足が動かなくなろうと関係ない。
俺の為にその力、存分に使わせてもらう。」
そう言う彼は敵の様な低い声を出しているのに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「…大和?…おい、大和!」
「そいつは俺と組む。
横取りはしないでくれよ。」
俺の様子がおかしい事に焦凍は気付き、肩を掴もうとした所を紫髪の彼に跳ね除けられる。
痛みという制御を無くした足は、いつも通りの速度で歩く事が出来た。
この状態であれば、問題無く縮地も使えるだろう。
この後は確か時間的に昼休憩入るだろうから、リカバリーガール殿に治してもらえる。
只、精神が剥離しているこの状態では愛刀は鈍になってしまうな。
棒として振るう事は出来るだろうが…。
焦る気持ちを何とか抑え、この状況を覆すべく観察に専念する。
この生徒の個性は『洗脳』か『催眠』の類いだろうか。
とても強力な個性だが、この個性であのヒーロー科の入試を突破するのは難しいだろう。
………だから、なのだろうか。
俺が、彼を知らずに苛立たせたのは。
そうこうしている内に騎馬戦が始まってしまう。
B組の生徒と尾白殿が同じく個性を掛けられた状態で騎馬を組み、騎手になった彼は決して目立つ事はせず、しかし着々と鉢巻を捕っていった。
俺は文字通り手も足も出ない状態で、悶々とその光景を見守っている。
考えろ、考えろ。
このまま終わってしまって良いのか?
否、尾白殿もB組の生徒も真剣勝負を望むだろう。
B組の生徒は初対面だが、尾白殿はそういう人柄だと知っている。
俺の出来る事を、この状態でも俺は何か出来る筈だ…!!
このまま競技を終わらせてしまうのであれば…。
俺は、この場で腹を切る!
覚悟を決め、兎に角足掻いた。
動け、動け!足でも腕でも、兎に角動かせ!
そう強く強く、念じていた時だった。
ぱきっ、ひびが入る様な音と共に、俺の意識がふっと戻って来る。
「…っ!と、けた…?」
「!?…自力で解いたのか?!」
目の前が鮮明になり、思わず騎手である彼を見遣る。
驚いた顔で此方を凝視しているが、それより時間が無い!
呆然とした表情で尾を動かし、周りを牽制している尾白殿に、俺は何とか個性が解けないか思案する。
足は酷く痛むが気にしていられない。
愛刀を引き刃にして、俺は叫ぶ。
「尾白殿!!目を覚ませ!!」
後試合終了まで3分を切った。
御免と思いつつ、俺は隣に居る尾白殿の肩に突撃する。
騎馬が大きく揺れたが、崩れる事は無い。
後で何かあっても、俺と一緒にリカバリーガール殿の所へ行けばいい。
B組の生徒にも声を掛けようとするも、騎手の彼が邪魔をする。
何度も此方へ呼び掛けてくるのだ。
それに応えなければ、確証は無いがきっと大丈夫だろう。
「痛ッ!!…な、んだ…!?西椋…?!」
「尾白殿!良かった…!」
漸く目が合った尾白殿に安堵し、俺は彼にこう告げた。
「お主の癪に触ったのなら謝罪する。だが、俺にも意地がある!
そうまでして勝ちたいのであれば、…俺を信じろ!!」
愛刀を振るい、一組の騎馬を崩しながら俺は猛る。
彼が何故こういう戦法を取るのか、察しはついているが俺はそれに異を唱える。
「個性を使わんでも、上に昇りたいのなら俺は助太刀する!
ヒーローなればこそ!俺の刀は人を救う為にある!!」
その言葉に、彼と尾白殿は目を見開いた。俺を見つめた後、彼はぽそりと呟いた。
「……やっぱ眩し過ぎるよ、おまえ。」
足の痛みで我武者羅になりながらも、尾白殿の助けもあり何とか鉢巻を死守し、漸く騎馬戦の終了時間となった。