第九話『うなれ体育祭』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雄英体育祭まであと一日となったこの日の夕方、西椋家に事件が起きた。
「あ、安土が入院…!?」
「下校時に車と接触してしまったそうでな…。」
父上がそう言い、電話の受話器を置く。
急ぎ入院の支度をする母上と、しっかり者の姉上は詐欺では無いか下調べを始めた。
俺は何か出来るか考えたが狼狽えるばかりだった…。
入院の手続きや、警察を交えた運転手との話し合い等諸々の関係があり、両親は手が離せなく姉上と俺は明朝、安土に入院の荷物を渡す事を任された。
幸い転倒した際に腕の骨を折ったくらいで、命に別状はなく数週間の入院のらしい。
只姉上一人では、この荷物量持ちきれないだろう。
病院の開く時間から考えると、明日の体育祭は少し遅れての参加になる。
最初の種目には間に合うが、開会式はギリギリ間に合わないかもしれない。
選手宣誓を任された俺だが、流石にこの緊急事態では難しい。
急ぎ相澤先生に連絡を取る。
『そうか…そりゃ災難だったな。
取り敢えず、選手宣誓は爆豪に任せる事にするから、無理せず会場に来るんだぞ。』
「はい。申し訳御座いません…。
種目が始まる前には必ず参ります。」
電話を切り、大きく深呼吸をする。
…どうにかなったものの、爆豪殿が選手宣誓になるのか…。
この間の放課後を思い出す。
俺は兎に角、開会式が波乱な物にならない事を祈るしかなかった。
「大和ごめんね、体育祭大丈夫そう?」
「心配召されるな姉上。何があろうと全力を尽くすのみだ。」
申し訳なさそうに此方を見ている姉上に安心させる様大きく頷き、俺は残りの鍛錬へと戻った。
そうして、体育祭の当日。
朝早くに安土の病室で荷物を渡し、雄英高校の最寄り駅まで行くバスに飛び乗る。
『兄さんごめんなさい…僕の不注意で、兄さんが体育祭遅刻する事になってしまって…。』
俺は今にも泣きそうな安土を抱き留め、背中を軽く叩く。
『いいんだ。お前が無事で何よりだからな。』
そう言って安土に笑いかけ、俺は病室を後にした訳だが、帰り際に病院の大広間にある大きな画面のテレビを見つけて、安土はその場をずっと占領しようとしていた。
他の方も観るから程々にな、とは言ったが…絶対守るつもりは無いだろう。
さて、そろそろ最寄りに着く頃だろうか。
入場の為の列が笑えないくらいに長い訳だが、俺は生徒故に持ち物検査等も無い。
走りながら裏手の入口から入り、1-Aの更衣室を目指す。
何とか更衣室を見つけ着替え始める。
着替えるのは戦闘服ではなく、体操服だ。
他の科との公平を期す為に、ヒーロー科は体操服での出場になるらしい。
しかし、例外的に持ち物の申請をしている為、愛刀とそれを差す為のホルダーは持って行く事が出来る。
忘れずにそれを付けて、髪を結い直し気合を入れる。
さて、大舞台の始まりだ…!!
会場へ繋がる廊下を早歩きする。
各所にスピーカーが取り付けられており、現在の開会式の様子が音声だけだが伝わってきた。
『選手宣誓!』
この声は…以前お見かけしたミッドナイト先生だろうか。
俺はミッドナイト先生を直視する事が出来ないから、正直な所余り得意ではない…。
いや、先生としては尊敬出来る方だと思うのだが…如何せん、ああいう露出の多い女性が近くにいない為、どう接すればいいか分からんのだ…。
『選手代表!!1-A 爆豪勝己!!』
爆豪殿……急で代わってもらって本当に申し訳ないが、なるべく穏便に…。
『せんせー。
俺が一位になる。』
爆豪殿ーー!!!!思わず叫びそうになる気持ちを抑え、俺は阿鼻叫喚の会場へ足を踏み入れた。
A組の列を見つけ、俺は皆と合流する。
「遅れてしまって済まなんだ。」
「西椋君!!!!」
爆豪殿が親指で首を切る動きを壇上でしている最中、A組の殆どが何で西椋君じゃなかった!!?と半狂乱だった。
…いや本当に申し訳ない…。
そして壇上から降りてきた爆豪殿に、手短だが礼を一つ。
「代わってもらって済まなかった、爆豪殿。助かった。」
「おめェもブッ潰すから覚悟しとけ。」
相変わらず物騒な爆豪殿に苦笑いをして、俺はそれに応える様に頷いた。
「さーて選手も揃った事だし、早速第一種目行きましょう!」
「雄英って何でも早速だね。」
ミッドナイト先生の後ろにある画面が、ぐるぐるとスロットの様に回転していく。
麗日殿の突っ込みに俺は確かに…と共感した。
「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が
さて運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」
画面に現れた文字は『障害物競走』。
その文字が出たと同時に、生徒の向かい側にある壁が門へと形を変えていく。
「計11クラスでの総当りレースよ!
コースはこのスタジアムの外周約4km!
我が校は自由さが売り文句!
ウフフフ…コースさえ守れば
さあさあ、位置につきまくりなさい…。」
妖しく笑うミッドナイト先生。
この生徒の数にしては、門がやけに狭い事を鑑みるに、此処は最初のふるいなのだろう。
…ともなれば、俺のやる事は決まった。
3つの灯りが、消えていく。
最後の灯りが消える瞬間、俺は個性を発動し高く舞い上がった。
なるべく怪我に繋がらない様、踏み込み過ぎないように注意しながら、押し競饅頭状態の生徒達の『肩』や『背中』を借りる。
八艘飛びの要領で、俺は門と人波の間に空いた上の隙間を、とんとんと軽く跳んで行った。
そして着地すると、隣の方から冷気を感じて素早く走り出す。
案の定、焦凍が周りの生徒を足止めする為に地面を凍らせて走っていた。
『さーて実況してくぜ!
解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろが。』
大音量でプレゼントマイク先生と相澤先生の声が聞こえる。
相澤先生の恨めしそうな声色に、プレゼントマイク先生の呑気さを感じ取れた。
俺以外にも焦凍の凍結を読んでいた級友達は、次々とそれを避けていく。
「クラス連中と大和は
「余裕で居られるのも今の内だぞ、焦凍。」
焦凍の少し前を走る俺は、目の前に現れた障害物に一旦足を止めた。
この巨体は、見覚えがある。