第九話『うなれ体育祭』
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その翌日。
いつも通り通学し、席で朝のHRを待っていると飯田殿が委員長節を発揮していた。
今日も飯田殿は元気だ…。
「お早う。」
「相澤先生復帰早えええ!!!!」
何処かでプロすぎる!!との驚きの声も聞こえる程、昨日と変わらず包帯雁字搦めのよろよろと覚束無い相澤先生が…何と朝のHRから学校に復帰してきたのだ。
病院で会った昨日の今日だ。
俺自身とてつもなく驚いたが、相澤先生は気にする素振りもない。
満身創痍状態を生徒達が心配する中、俺の安否はどうでも良いと切り捨てる相澤先生。
その後に飛び出してきた戦いは終わっていないという言葉に、皆が戦々恐々とする。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
昨日冬美殿に言われたその『雄英体育祭』という単語に、生徒達が一息着いた後一気に盛り上がった。
俺はその盛り上がりから置いてかれる中、一部からは心配の声も上がる。
「待って待って!
確かにその通りだが、先生はそれに淡々と返す。
逆に開催する事で雄英の危機管理体制が盤石である事を示し、警備は例年の五倍に強化するそうだ。
…成程、そういう見解もあるのだな。
それを行う為にも、警戒は怠ってないと。
「何より雄英の体育祭は……
敵ごときで中止していい催しじゃねえ。」
入学式やガイダンスも、意味が無いと個性把握テストに切り替えた相澤先生がこうまで言うのだ。
俺は期待に胸を膨らませた。
嘗てオリンピックというスポーツの祭典があったが、超人社会になってからは規模も人口も縮小してしまい形骸化した。
その嘗てオリンピックに代わるのが、『雄英体育祭』なのだと先生は言う。
全国でトップヒーロー達もその中継を観るのだそうだ。
将来の相棒…スカウトを目的として。
「……そんなに有名な催しだったのか…。」
自分の無知さに恥ずかしくなりながら机を見つめる俺。
しかし、知っているか知っていないかは今関係ない。
名のあるプロに見込まれれば、その場で将来が拓ける。
それ程までに重要なものなのだ。
「年に一回…計三回だけのチャンス。
ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!」
相澤先生は皆を鼓舞し、生徒達の顔付きも引き締まったものになる。
こうして、HRも終わり午前の授業も終了した。
昼休みの時間になり、漸く私語が許されて各々が盛り上がる。
俺は脱力しながらも立ち上がり食堂へと向かおうとしたが、盛り上がる生徒の中異彩を放つ生徒が一人。
「皆!!私!!頑張る!」
切島殿が心配する程人格が変わっている麗日殿を横目に、俺は食堂へ行く為焦凍に声を掛けた。
麗日殿もこの体育祭…というより、プロに見込まれるという好機に気合を入れているのだろう。
…俺もこうしてはおれんな。
「鍛錬の項目を増やすか…。」
「これ以上入れる時間あんのか大和。」
焦凍が呆れた顔で此方を見ているが、そこを工夫するのが腕の見せ所である。
取り敢えず今日も食堂の御品書きと睨めっこする俺を置いて、焦凍は蕎麦の列へと並んで行った。
本当に焦凍はいつも蕎麦で飽きないのだな。
俺は決まった飯が無いからいつも此処で迷ってしまう。
今日の定食も美味そうだが…此処は敢えて丼に行くのも有りだな…。
「…むう、よし。親子丼定食にしよう!」
大盛り無料で味噌汁とお新香、そして何より団子が付いてくるお得な定食に決定し、俺は列に並んだ。
「西椋、ちょっといいか。」
焦凍と飯を食べた後、廊下を歩いている所で相澤先生に声を掛けられる。
俺は焦凍に先に行ってくれと目配せをして、先生の元へ向かった。
「……俺が、選手宣誓をですか?」
「ああ。お前さんがヒーロー科の入試で一位だったからな。」
そうだったのか…と衝撃の事実を今更知らされた俺は、大役を任される事となった。
「まぁ、長くなり過ぎず端的で合理的なもので頼む。」
そう言われ解放された俺は職員室を後にした。
…今から二週間、俺自身のやる事が多そうだ。
教室へと戻り午後の授業を難なくこなした後、放課後になる。
しかし、帰ろうとするもそう簡単には行かなさそうな人垣が1-Aの扉の前に出来ていた。
何事だと驚く麗日殿に、爆豪殿が敵情視察だろと冷静に返す。
途中で貶された峰田殿が、驚愕の表情で爆豪殿を指さしていた。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
体育祭の前に見ときてえんだろ。
意味ねェからどけ モブ共。」
「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
爆豪殿はいつでも爆弾発言を噛ますが、流石にこの大勢の人の前でそれを言うのは如何なものか…。
飯田殿が注意するも、爆豪殿は何処吹く風だ。
そして、その爆豪殿の言葉に前へ出てくる生徒が一人。
少し挑発的な発言をしつつ、幻滅するなぁと感想を述べた。
紫髪を逆立て目元の隈が目立つ長身の男子生徒は、此方を見遣る。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。
知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。
その逆も、また然りらしいよ………。」
その言葉に、衝撃が走る。
この狭き門であるヒーロー科の生徒を少なからずよく思っていない生徒は居るという事。
そして、腑抜けた成績を残した生徒の末路をこの場で知る。
「調子のってっと、足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり。」
爆豪殿に負けず劣らず、大胆不敵な発言をする男子生徒を皆が注目する中、人垣の一部がまた盛り上がる。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!
敵と戦ったっつうから話聞こうと思ったんだがよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!!
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
此方に正論でもって声を張るB組の生徒。
それを踏まえて1-Aの殆どが爆豪殿を見つめる。
その視線を気にも止めず人垣を掻き分け進もうとする爆豪殿に、思わず待ったを掛ける切島殿。
しかし、爆豪殿はこう返した。
「関係ねえよ………上に上がりゃ、関係ねえ。」
その端的な応えに、生徒達が納得しかけるが一部からは否の声が上がった。
ざわつく教室を無視し、その後爆豪殿は教室を後にする。
俺も荷物をまとめると、その人垣に歩を進めた。
「…すまぬな、電車の都合上先を急ぐ故、通してもらって良いだろうか。」
爆豪殿の後だ。
警戒心を持たれないよう軽く笑って伝えると、人垣の生徒の一部が一斉に道を確保し始めた。
……何だ、一体…。
「あの…!!」
女子生徒から声を掛けられ、思わず其方を向く。
何処かで見た顔だ。
「入試の時、貴方に助けてもらったんです!私、ずっとお礼が言いたくて!…ありがとうございました!」
そう言って頭を下げる女子生徒に、俺は少し驚きながらも腑に落ちる。
0ポイントを撃退する際に救助した生徒だったか。
そうか、その後彼女は普通科に入ったんだな。
「頭を上げてくれ。…無事な様で何よりだ。
俺が言うのも何だが、お互いに悔いの残らない学校生活にしよう。
これからも、お主が健やかである事を祈っている。」
女子生徒に伝え、俺はいつの間にか人垣を脱出し昇降口へ向かっている焦凍を追いかける様にその場を離れた。
…後ろで女子生徒が湯気が出る程赤面していたり、周りの人が感心していたり。
上鳴殿がこれだよコレ!!こう言うのがヒーローだよ!!と盛り上がっていたそうだが、電車の時間に気を取られていた俺は知る由もなかった。