第九話『うなれ体育祭』
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USJで起こった敵襲撃事件の翌日、臨時休校で休日となった俺は病院に赴いていた。
理由は、相澤先生の見舞いである。
しかし相澤先生は先の襲撃事件で重傷だ。
もし面会謝絶だったら諦めて帰ろう。
13号先生やオールマイト先生は面会謝絶だったしな…。
俺は見舞い品である団子を持ち直し、病院へと入った。
白を基調とした清潔感のある院内で、俺はフロントの看護師に声を掛ける。
相澤先生の面会を希望すると、看護師は何処かに電話を掛けた。
椅子に誘導され、数分待たされると看護師から面会了承の意を伝えられた。
「有難う御座います。」
一礼して、伝えられた番号の病室へと向かう。
扉を開けると、包帯やギプスで雁字搦めになった相澤先生がいた。
「……相澤先生…。」
「おぉ、西椋。休校なんだからちゃんと休めよ。」
此方を見ている筈だが、顔中にある包帯のせいで良く分からない。
心做しか先生の声が優しいのが、尚の事心を痛めた。
軽く世間話をしてから、見舞い品である団子を、寝台の近くにあった棚の上に置く。
深呼吸をして、俺は先生の顔を見る。
「先生、…こんな事を言っても仕方の無い事だとは分かっています。」
「…あぁ。」
「……あの時、到着が遅れて、申し訳御座いませんでした…!!そして、救けてくださり…有難う御座います…!!」
深く深く、体を折り先生に謝罪と礼をする。
俺の自己満足なのは重々承知であるし、こんな事をしても相澤先生の怪我が治る事は無い。
だが、現に未熟者である俺達が、こうして無傷で居られたのは先生達が身を呈して守ってくれたからだ。
…俺は、昔からこういう時に、面と向かって言葉にしないと気が済まない質だ。
それが、俺の長所であり短所でもあると思う。
礼儀正しいのかもしれないが、逆に圧力になってしまうと。
俺が何時までも頭を上げないでいると、相澤先生は溜め息を付いた。
「…医者から聞いたが、お前さんが応急手当してなきゃ俺はもっと酷かったらしい。
適切な応急手当をされたから、これくらいで済んだ。
…西椋、お前があの時救けてなかったら俺はヒーロー活動が危ぶまれたかもな。」
先生の低く落ち着いた声が、荒んだ心に染み込んでいく。
思わず滲んでしまった視界のまま、頭を上げ先生を見つめた。
「…救けてくれてありがとな、西椋。
お前さんのお陰で、俺は此処に居られる。
未熟なお前に頼って、責任感じさせて悪かった。
…初めての敵、怖かったろ。」
ギプスと包帯で固められた腕で、先生が俺の横っ面をぽんと叩く。
撫でようとしているのか、その軽い衝撃に俺は堪らず、一粒の涙を零した。
赦されるだけで充分だった。
それなのに、相澤先生は俺を『ヒーロー』の行動として評価し礼を述べたのだ。
そして、一生徒の俺をここ迄気遣って言葉を選んでくれた。
お互いが救け合った存在なのだと俺を諭したのだ。
……この先生は、本当に良い教師だと気付かされる。
少し見目と食生活に頓着しない所が玉に瑕だが…。
俺は、どれだけ恵まれているのだろう。
相澤先生の優しさが、とても辛い。
だが、それ以上にとても温かった。
涙を一気に拭い、自身の頬を一回両手で挟む様に叩く。
ぱんっと乾いた音が病室に響いた。
…これ以上先生を困らせる真似は出来ない。
「先生、有難う御座いました。……相澤先生が担任で、良かったです。また、学校でお待ちしています。」
病室に入る前よりはマシになった俺の顔を、先生は見つめる。
「西椋、あんま抱え過ぎんなよ。
お前さんもまだ15のガキなんだから。」
その言葉に俺は困った様に笑う事しか出来ず、それでも謙遜する事はせずに、先生にもう一度礼をして病室を去った。
「あれ?大和君。」
先生と別れてから病院の廊下を歩いていると、背後から女性に呼び止められる。
振り向くとそこには焦凍の姉、冬美殿が花瓶を持って立っていた。
「冬美殿。」
「久し振りだね!いつも焦凍と仲良くしてくれてありがとう。あの子、マイペースだから大和君大変でしょう?」
朗らかに笑う冬美殿に、俺はそんな事無いと首を振り軽く笑う。
「確かに自由奔放な所はありますが、焦凍は良くやってますよ。」
「そう?それならいいんだけどね。」
花瓶の水を変える為水場に向かっていた様で、世間話をしながら共に廊下を歩く。
冬美殿が此処に居るという事は、焦凍の母の見舞い…だろうか。
「そういえば、もうすぐ『雄英体育祭』よね?」
「……?」
「えっ、大和君…雄英体育祭、知らない?テレビとかで毎年やってるんだけど…。」
雄英体育祭……、言葉の意味は分かるがそれ程までに有名なのだろうか?
家でテレビを付けない為、全くもって知らなかった。
…言われてみれば、小中の級友達がわいわいとその単語を口にしている時期があったな…。
「ま、まぁ、その内説明されると思うし…頑張ってね!大和君!」
「はい。有難う御座います。」
兎に角、プロヒーローになるに当たって大事な催しなのだろう。
会話を濁されてしまったが特に気にせず、俺は病院の出入口へと繋がる大きい廊下で冬美殿と別れ、その後無事家路に着いたのだった。