第七話『救助訓れ、』
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余りの熱に、思わず目を開けると…一面に広がる炎。
轟々と唸る熱い熱気と、煙の息苦しさに一つ咳をした。
此処は…火事を想定した演習場か?
「ヘヘッ、飛んで火に入る夏の虫ってかぁ?」
「生意気なガキがおでましだぜ!!」
炎や煙に紛れる様に現れた数々の
その多くは熱さに強そうな者、火を使った個性の者だった。
「……。」
俺は考える。
俺達の力は人を傷つける為にあるのではない、救ける為にあるのだ、と諭す13号先生の言葉を。
愛刀に手をかけ、抜刀する。
その刃は、俺の意志を尊重する様に見事な『引き刃』となっていた。
引き刃とは、刃を潰し『切れない』状態にした刀の事であり、重さや本質は刀とは変わらないもの。
これで切れる事は無いが、いつもの様に胴や篭手を狙えば骨は砕けるだろう。
そう、俺はこの
それは『殺す』事で倒すのではなく、この者達を引っ捕らえ、法によって裁かれた後、罪を償わせる事。
それこそが、俺の今出来る総てだ。
「牢の中で、しっかりと反省するが良い。」
そう呟き、俺は縮地で
数は多いが強い訳ではなく、ゴロ付きと言って差し支えない者が殆どであった。
「このガキ何なんだよ…!!?強いとか言うレベルじゃねぇ…!!」
「ば、化けモンだ…!!」
実力の差に怖気付く
最後の一人を気絶させ、刀を納め一息着いた俺は、級友達の捜索へと歩き出した。
「西椋、か!?」
「…! 尾白殿!!」
暫くさ迷っていると、俺を呼ぶ声に振り向く。
白い道着と太い尾が見え、尾白殿が笑顔を見せた。
無事である事を確認して、ほっと息を吐く。
「尾白殿…この受難の中、体術のみで良く耐えきったな…。」
改めて尾白殿の身体能力の高さに感銘を受けていると、尾白殿は照れ臭そうに頬をかいた。
そして、はたと俺の顔を見て目を丸くする。
「西椋!血が付いて…どこか怪我したのか!?」
少量ではあるが、頬に
それに対して、大丈夫だ。と無傷である事を伝える。
序に俺の所為で尾白殿の手が汚れてしまったので、懐に仕舞っていた手拭いを取り出し尾白殿の手を拭いた。
それに少し肩を揺らす尾白殿だったが、近くで俺を見て納得したのか、背中にある大きな機械を指さした。
「なぁ、西椋…この機械が、炎を止めて換気する装置みたいで、これ付けたら無事に出られそうかもなんだ。」
「成程、では起動させよう。」
機械を動かした尾白殿を眺めながら、他に生徒がいたか聞いたが見ていないと言われた。
天井から水が撒かれる音と、風が通る音が聞こえる。
「尾白殿、申し訳ないが安全となったこの演習場で、まだ生徒がいないか探してもらえないだろうか?」
「いいけど、西椋はどうするんだ?」
「…俺は、一旦中央に戻る。」
そう言って、尾白殿と別れ俺は駆け出した。
何か嫌な予感がするからだ。
時折縮地を交え、高速に移動すると辿り着いた中央の広場。
そこで見えたものは凄惨なものだった。
俺の何倍もある大きな
べき、ばき、と何処からか音が聞こえる。
もしかして…もしかしなくとも、あの巨大な
俺は、全身の血が一気に沸騰するのを感じた。
近くにあの『手』の
先生を見たら、今まさに渾身の力で地面に叩きつけられていた。
ーッザシュ!!
縮地で巨体の
見事に両腕を一刀両断された
「先生…!!!」
「に、しむく…」
イレイザーヘッド先生を担ぎ、急ぎ
『手』を付けた
「なに、何あのガキ……。
"脳無"の両腕を、斬り落とした…??
何だアレ…!!…『欲しい』!!」
何やら混乱している様だが、俺はそれに構っている暇はない。
先生の肘は…
その場に降ろして手拭いを裂き、気休めだが止血をした。
他にも見える所はテーピングをしたり、これ以上酷くならない様、固定させ応急手当を施す。
そして、大きな音が後方から聞こえ振り返ると、確かに落とした筈の『脳無』と呼ばれた
思わぬ"個性"に俺は驚く。
その間に、
「死柄木 弔。」
「黒霧、13号はやったのか。」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました。」
死柄木 弔、と呼ばれた『手』の敵はその言葉に固まり、次第に苛立ちを見せる。
張り付けた手の隙間から顔を掻き、大きな溜息を付く。
「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。
ゲームオーバーだ。あーあ…。
踵を返し、殺気を消す死柄木。
ぽつりと呟いた言葉は、帰ると言う意思表示。
まるで幼稚なその行動の数々に、俺は戸惑いを隠せずにいる。
その時だった。
突然死柄木は方向を変え、瞬時に水辺の方に手を伸ばした。
よく見るとそこには、梅雨殿や緑谷殿、峰田殿がいて。
拙い…!!と思った時には、その凶器である手が、梅雨殿の顔を触れていた。
「梅雨殿…!!」
しかし、想像していた絶望はやって来ず、梅雨殿は無事であった。
ふと、手当をした先生を見る。
目は充血しており、頭や顔…そして体からは未だに血が流れる先生は、ぼろぼろにも関わらず、死柄木を止めるべく"個性"を発動させていた。
「……、西椋…すまん、後頼んだぞ…。」
最後の力を振り絞った先生は、遂に気絶してしまい、俺は着ていた黒い羽織を先生に被せた。
素早く水辺の方へ視線をやると、緑谷殿が死柄木に一矢報いようとしていた。
「無茶をするな緑谷殿!!」
重い音と共に打ち込まれる緑谷殿の右腕。
しかし、それは黒く大きな壁『脳無』によって阻まれてしまった。
脳無に緑谷殿が掴まれそうになった瞬間、縮地で水辺にいた三人の元へ行く。
緑谷殿は梅雨殿の舌によって繋がれていた所を、俺は纏めて抱えその場を去ろうとした。
「! 速…やっぱ、いいな…君…。」
「西椋君…!!!」
お互い顔が見えない筈なのに、目が合いにたりと笑われた気がした。
そのずるりと首筋を撫でられた様な視線に、思わず俺は寒気を感じる。
縮地が止まってしまって、はっとしたその時。
大きな音と共に破られた扉。
そこに立つ人物を、皆が待っていた。
「もう大丈夫。
私が、来た。」
その顔に、いつもの笑顔は無く。
「あーー…コンティニューだ。」
俺の近くで、死柄木が愉しげに嗤った。