第六話『いいぞガンバレ飯田くん!』
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雄英に入学して早くも三日目。
そんな早朝、俺はいつもより長めの走り込みをしていた。
今日は早朝にしては気温が麗らかで、桜散る中走るのがとても気持ち良かったからだ。
いつもと違う道を走っていると、自然とその方向へ向いてしまっていたのか、昔からの馴染みの店が見えてきた。
店前で箒を手にして掃除をする老婦人を、俺は良く知っている。
「あらぁ〜!大和ちゃん、お久しぶりねぇ。元気だったかい?」
「和子殿、久しく。此方は変わりないです。…お元気そうで何より。」
「聞いたわよぉ。雄英に受かったんですって?凄いじゃないのぉ!」
商店街の外れにある、このこじんまりとした和菓子屋は俺にとって思い出深い店だ。
店主である和子殿は今年で米寿になるらしい。
だが、一人で切り盛りしているにも関わらずその腰は曲がる事もなく、今でも店主として現役である。
「春だし良かったらお団子持ってくかい?
あ、そうそう!今日からの新作もあるのよぉ。良かったら入ってってぇ。」
「忝ない。では、お言葉に甘えて。」
ぐいぐいと引っ張られ奥に案内されると、椅子に座らされ和子殿は厨房の方へ行ってしまった。
まだ開店するまで3時間程ある筈だが、饅頭を蒸し餡子を煮詰めるいい香りがした。
そう言えば、麗日殿がお餅が好きだと言っていた様な気がする。
少し遠いかもしれんが、価格も安いしいつか紹介したいものだ。
「さぁさ、おあがり。大和ちゃんはうちの常連さんだから、サービスだよぉ。」
暫く待っていると奥から出てきた和子殿。
出されたのは消し炭色した焼物の皿に、綺麗に色分けされた三色団子が一つと、真っ赤で大きな苺が飛び出た苺大福がいた。
「これは見事…!頂きます!」
手を合わせ、早速団子をぱくりと頬張るとほんのりとした甘さが口一杯に広がる。
一緒に渡された熱い渋めの緑茶が、本当に良く合う。
思わず笑みが零れてしまった。
同じ皿に乗る、何だか食べるのが勿体ない程の愛らしい苺大福を見ていて、苺の赤色と大福の白色が焦凍を思わせる。
「……、ふふ。」
その柔い大福を緩く突き、俺は一口でそれを食べた。
女性にも食べやすい、少し小ぶりな形がまた素晴らしい。
甘酸っぱく広がる幸せに、ついつい俺は緑茶を飲むのを惜しむ。
「和子殿、今日はこの苺大福を二つ包んで貰っても良いだろうか。」
「はいよぉ。大和ちゃんは本当に幸せそうに食べてくれるから、おばちゃんも嬉しいよぉ。」
俺は出された緑茶も飲み干し、勘定をしてから、今日の昼にでも見せてやろうと内心ほくそ笑み大福が入った袋を受け取った。
あの店は、こうして俺が雄英に通ってからも全く変わらない。
幼い頃、焦凍に何も出来ない事を嘆いていた俺に笑いかけ、和子殿はその美味しい団子を差し出してくれた。
俺にとっての憩いの場であり、俺が人を救いたいと思う切っ掛けになった場だ。
あの時、こっそりと屋敷に忍び込んで食べた団子の味を、焦凍は覚えているだろうか。
あの時より確かに強くなったが、同時に泣かなくなってしまった幼馴染に、俺はこれから何が出来るのだろう。
「……、お節介が過ぎるだろうか。」
青くなってきた空を眺めそう呟きながら、俺は袋に気を遣い少しゆっくりめにだが一歩また一歩と走り出した。