第五話『猛れクソナード』
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程なくして始まったBチーム対Iチームだが、焦凍の宣言通りほぼ一瞬で終わってしまった。
障子殿は力だけでなく索敵にも優れており、ビル内にいる敵チームが何処にいるのか瞬時に把握した。
そして、障子殿を下がらせビル全体を大規模に凍らせてしまう焦凍。
足元を固定されてしまった敵チームは為す術なく、焦凍が核を回収して終わった。
……急激に冷えたから、若干肩が震える。
羽織を着ているものの、冬場には襟巻も追加した方がいいだろうか。
そう思っている間に焦凍が戻って来ており、温まった左手を俺の頬へ当ててきた。
「温い……。」
思わず目を細め肩の力を抜くと、焦凍は心做しか満足そうにしていた。
講評も終わり、トントン拍子に第三試合となる。
次に引かれたくじは、ヒーローチームが我らがH組で、敵チームはJチームとなった。
俺は焦凍から離れ、準備する。
「見てるからな。」
そう言われるからには、腑抜けた試合は出来ない。
気合を入れて、訓練場へと向かった。
その行くついでに、未だに俯く爆豪殿の肩に手を置く。
弱い力で弾かれてしまったが、俺は爆豪殿にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。
「次は、もう少し筋の通った試合をしてくれ。」
その呟きに爆豪殿は応えず、歯を食いしばる表情だけが見えた。
「さて、急拵えの作戦ではあるがひとつ聞いて欲しい。」
「なぁに西椋ちゃん。」
梅雨殿が此方を見上げ、常闇殿が振り向く。
今は訓練が始まる前の作戦時間だった。
それもあと3分程で終わってしまうが。
「まず、俺が精神を研ぎ澄ませ個性で気配を探ろう。
核の位置も把握出来る。
敵チームの二人から察するに、奇襲よりは防衛戦向きな感じが見受けられる。
俺と常闇殿が相手をするので、梅雨殿の個性で死角から核を回収して欲しい。」
「分かったわ。」
「承知した。」
二人は素直に頷くが、正直これで上手くいくかも分からない。
相手チームの二人は特に知らないが、あの赤髪の男子は正義感が強い性格であることをモニタールームに居た時から分かっている。
裏を返すと、それしか知らない相手なのだ。
『それでは、第三試合スタート!!』
合図を聞き、即座に個性を使い気配を読む。
……、3階か。二人共まとまっているな。
…何か布の様な物が幾つもある様だが、個性だろうか?
「…核は3階にある。敵もそこに固まっているな。」
「あら、正面衝突が好きなのね。」
「搦手で攻めるのもありだが…。」
布のような物が部屋に多くある事と、比較的窓辺に近い事を伝える。
それに了承した梅雨殿と常闇殿と共に取り敢えず俺は、敵の拠点へと足を踏み入れた。
時々気配を読んで確認するが、二人が核の部屋から動く事はない。
目的の部屋に着くと、扉を開けようとした常闇殿を一度制す。
「待て常闇殿。扉で罠が作動する事もある。
……俺が扉ごと斬るので、二人は後に続いてくれ。」
二人は少し離れて、敵の死角に位置する場所で控えてもらう。
愛刀を構え、居合切りで何ヶ所も斬り込んだ。
「はーー!!轟みたいに単騎で出撃か?近くで見るとほんっとうにかっけェ!!」
「マジでそれだよなぁ。でも、このテープ地獄はどうするよ?」
見渡す限りの布……基、テープ。
成程、粘着性のあるこのテープが室内に張り巡らされている。
このまま突っ込めば捕獲されかねない、が。
「…悪事もこれまでだ、お縄を頂戴する。」
飯田殿が全力で小芝居をしていたので、俺もヒーローらしく一芝居うつことにした。
初速の縮地で部屋へ入る。
テープの間を縫う様に、隙間に入り込むと居合で纏めて斬った。
ーキィンッ!!!
鞘に納めた瞬間、バラバラと舞い落ちるテープの吹雪。
その瞬間に、常闇殿と梅雨殿が部屋へ突入してきた。
俺は赤髪の男子の前に跳ぶ。
作戦通り、常闇殿はテープの男子を相手していた。
「うぉお?!マジか!!?…なーんて、な!!」
「!!」
個性を解き木刀に変えた状態で打ち込むと、何と彼の皮膚がとてつもなく硬くなった。
成程、これがこの男子の個性か。
「気遣ってくれたみてぇーだけど、俺に刃物は効かねえぜ!!」
「…そうか。」
再び個性を愛刀に宿らせ、腕と刀の鍔迫り合いをする。
ここ迄の業物に仕立てた愛刀も防ぐ硬さとは、恐れ入った。
……だが。
「確かに相性は悪いかもしれんがな。…それだけが芸ではないのだ。」
鍔迫り合いを止め、距離を取り飛び掛ってくる男子を横目に、鞘に納め構えていた刀からそっと手を離す。
飛び掛ってきた勢いのまま腕を取り、遠心力を利用して一回転、まるで磁石で吸い寄せられたかの様に、仰向けの状態で床に叩きつけられた男子は目を白黒させた。
そして、その男子の上に跨り腕を確保する。
「は??!え、何だ今の!!?」
「確保。」
「あ゛ーーっ!!!」
合気道で沈めた男子の腕を確保テープで巻き付ける。
常闇殿を見ると、黒影がテープの男子を縛り付けていた。
壁に張り付いていた梅雨殿が、チャンスとばかりに着地し核へ触れる。
『ヒーローチーム!!WIIIIIN!!!』
先生の掛け声を聞いて、確保テープを外し上から退くと硬化の少年は俺に握手をする形で手を取る。
「入学初日から思ってたんだけどよ!!やっぱ西椋かっけぇえな!!俺、切島 鋭児郎ってんだ!良かったら仲良くしてくれ、いやしてください!!」
「あ、あぁ…。」
いきなり頭を下げられ戸惑ってしまうが、思えば切島殿は入学初日から俺の縮地や個性に興味を示していた。
何やら尊敬の眼差し?に近いもので見つめられる事があるのは気付いてはいた。
「俺、瀬呂 範太ー。いやぁー、俺の自慢の個性も侍の前じゃ形無しだったわー。」
「そんな事はない。部屋を見た時に、虚をつかれた気分だった。」
その言葉に笑う瀬呂殿だが、中々考えられた防御策だったと思う。
二人に声を掛けた後、俺は梅雨殿と常闇殿の元へ行く。
「二人共とても良い手助けだった。
二人がいなければ勝利は掴めなかった。」
「そんな事ないわ西椋ちゃん。
とってもかっこ良かったし強かったわよ。」
「またこの饗宴を愉しみたいものだ…。」
モニタールームへ戻る為、俺達は訓練場を後にする。
…だが、その前に。
「……西椋、濡羽色の絹に不純物が…。」
「む?」
「あら西椋ちゃん、テープの破片が折角の髪にいっぱい付いてるわ。」
振り向くが、結んだ高い位置のせいで確認が難しい。
向こうの方で瀬呂殿があちゃーとしながら切島殿と共に此方へ来た。
「戦闘服は大丈夫なのに、何でここにいっぱい付くかねー?」
「瀬呂のテープってもしかして髪フェチなんじゃねぇの?」
「んな訳あるか!!」
そう言いつつ高い位置の所は二人で取ってくれていた。
毛先の方は何だか上機嫌な梅雨殿と常闇殿に任せ、俺は四人にされるがまま髪を触らせる事になったのだった。
「西椋ちゃんの髪、サラサラでとっても気持ちよかったわ。」
「ふむ、魅惑の絹糸だった…。」
少し時間が掛かってしまったが、こうして俺の対人戦闘訓練が終わった。