第四話『今、僕に出来ることを』
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「西椋 大和君だよね!?」
見知らぬ二年の先輩に捕まる、入学二日目の朝。
その先輩に見覚えないが、手に持つビラには心当たりがある。
『初心者歓迎!剣道部員募集中!!』
でかでかと書かれたそのビラに目線を移しながら、どうしようかと迷っていた。
「ほんっとうに西椋君が入ってくれると助かるんだけど!!この通り!!これも人助けだと思って!!!」
「…しかし先輩、ヒーロー科の俺は必ず部活や大会に出れるとは限らないですよ…?」
やんわりとヒーロー科の方が優先される事を伝えるが、先輩は尚も頭を下げてくる。
校門前でこうされると、何というか他の生徒達の視線が痛い。
一緒に来ていた焦凍には、時間が掛かりそうなので先に行ってもらったが…こうなると、強引に連れていってもらった方が良かっただろうか…。
「西椋君が入ったってだけで、マネージャーとか部員の士気が上がるし、ほんとに偶に来てくれるだけでもいいから!!」
「う、ぬぅ……。」
正直、剣道に関しては実家で出来る。
父上という素晴らしい指導者がいるし、通学に時間がかかる為放課後は余り残ろうとはしない。
ヒーロー科は部活動を余りお勧めされなかった事もあり、俺はほとほと困っていた。
そんな時だ。
「邪魔だくそこら。」
「爆豪殿…。」
不意に後ろへぐいと竹刀袋が引っ張られ、俺は先輩と物理的に距離が離れる。
「先輩、この話は…お断りします。」
「そ、そんなぁ…!!」
爆豪殿にずるずると引き摺られながらもそう伝えると、尚も食い下がろうとする先輩。
しかし遂に爆豪殿が掌を爆発させながら威嚇しだして、気圧された先輩は肩を落としていた。
昇降口で上履きに履き替える時、爆豪殿は手を離した。
「…面目ない、爆豪殿。」
「朝からウゼェんだよ。」
「いやはや、随分強面なヒーローに助けられてしまった。」
そう言い笑うと爆豪殿は、取り出した上履きを地面に叩きつける。
「うっせェ!!次はその髷燃やすからな!!!」
「ま、髷とは失礼な……。」
舌打ちしながら教室へ行ってしまった爆豪殿を見送りつつ、俺も靴を履き替えた。
そう言えば、この髪もそれなりの長さになったな。
元々は願掛けのつもりで伸ばしていたものだ。
今でもその願掛けは変わらない。
…俺が、泣いている人を救えるヒーローになった時。
その時はこの髪を切る、そう決めている。
竹刀袋を持ち直して、俺は皆がいる1-Aの教室へと急いだ。
『んじゃ次の英文のうち、間違っているのは?
おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれーー!!!』
壇上で英語を教えるプレゼントマイク先生に、俺は教科書を睨む。
そう、俺は英語が苦手だ。
雄英は特殊科目の実技が多いが、何よりも通常科目の進みが速い。
まだ中学の復習も兼ねての授業ではあるが、これから先どんどん難しくなるだろう。
『次の英文読んでみろ!!Hey!Mr.SAMURAI Boy!西椋!』
「!?はい!!」
ま、まさかの指名に立ち上がりはするが英文が頭から入ってこない。
「い、いっといず…でふぃかると、ふぉー、みぃ…とぅー…すぴーく、いんぐりっしゅ…!」
何とか読めたので安心したが、気付いたら周りは物凄い勢いで此方を見ていて、マイク先生に至っては教卓に突っ伏して震える始末。
『そ、そうだな…!うん、座っていいゾSAMURAI Boy…!
とまぁ、この文の訳は"私にとって英語を話すことは難しい。"って事になる。
ここの文法は頭入れとけー!』
何なんだ。そんなに発音が悪かったか。
読んだ例文は正しく俺じゃないか…。
中学の時から先生に言われてはいたが、高校生になっても成長しない英語力に俺は自暴自棄になりそうだ…。
「(西椋君のギャップやばい!!!!
いや、ある意味期待を裏切らない!!)」
この時、クラスの心が一つになっていた事を俺は知らなかった。
さて、午前の授業が終わり食堂に向かう。
中学の時は給食だったが、高校になると弁当か食堂か選べるようだ。
「英語相変わらずだな大和。」
「煩い。」
焦凍に冷やかされ羞恥がぶり返す。
あの後マイク先生にも発音や筆記の個人レッスンを約束されたが、中学の時からこうなのだ。
不安しかない。
「焦凍は蕎麦か。」
「大和は何にすんだ?」
色々なボタンを眺めながら、主に和食を見つめる。
実家でも食べる料理は和食が殆どだった。
「よし、天ぷら定食にしよう。山菜のかき揚げが美味そうだ。」
「渋いチョイスだな。」
焦凍も変わらんだろうと思いながら、列に並ぶ。
暫くして出された定食は、白米が粒立ち湯気をたて、天ぷらの衣が黄金に輝く素晴らしいものだった。
「職人の拘りを感じるな。」
「そういうもんなのか。」
いただきます、と手を合わせ幼馴染と卓を共にする。
うむ、この選択間違えなかった。
言葉で言い表せないくらいとても美味い。
じぃーんと日本人で良かったと噛み締めながら、午後の授業について話し合う。
「ヒーロー基礎学とは何をやるのだろうな。」
「……、組手とかか?」
「そんな単純なものなのか?」
さあな。と茶を啜る焦凍を尻目に、俺も海老を一口頬張った。
何にしろ、初めてのヒーローらしい授業だ。
密かに心を踊らせながら焦凍とぽつぽつとした会話をしつつ食べ進め、焦凍が食べ終わると同時に俺は両手を合わせて料理に感謝をした。
「ご馳走様でした。」
「綺麗に食べるよな。」
そうか?と聞き返しながら盆を返却口に返し、焦凍と並んで教室へ戻る。
次の授業への期待を膨らませながら、俺は席へと戻ったのであった。