第四話『今、僕に出来ることを』
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まだ名の知らぬ生徒達が、それぞれ感想を口にしている。
その殆どが他の者の言葉に被って、余り聞き取れなかったが…。
「個性カッコ良すぎだろー!!」
「めっちゃサムライやん!!」
「ズルいけど俺使える気がしねぇー!」
と盛り上がっている様だった。
いい加減にしないと…と思っていると、相澤先生が凄い勢いで生徒を睨んだ。
……効率を重視する先生は、さっさとしろと言わんばかりに移動を始めた。
体育館へ移動して、次は握力測定。
これに関しては…余り個性は関係ないかもしれないが、刀を携えた状態で反対の手に測定器を持つ。
精神統一をして、思いっ切り握る。
「ピピッ」
画面を見ると、83kgwと表示される。
余り人と比べた事は無いが、中々の数字ではないだろうか?
うむ、鍛錬の賜物だな。
そう思っていると、近くで障子殿が測定しており、その数字に皆が驚いていた。
…ご、540kgw…。
あの体格と片側の腕全部であの数字か…。
「凄まじいな、障子殿…。」
独り言ちながら、次の種目へ向かった。
立ち幅跳びは、個性のお陰で跳躍力は良くなっている。
少し危なかったのは砂の部分を飛び越えてしまった事で、着地する際にヒヤッとした。
反復横跳びは"縮地"を使うと同じ所の地面が陥没する恐れがある為、ある程度加減して高速に動く。
隣に立っていたロボットの数値を聞いて、中々の数値だと思いながら次の種目へ移った。
ボール投げの所へ行くと、50m走で走った後嬉しそうにしていた女子が、丁度投げている所だった。
ふわりふわりとシャボン玉の様に空へ昇っていったボールを呆然と眺め、先生の持っている測定器を見ると数値は何と∞。
「まさか大気圏まで行ってしまったのか…?」
「すげえな。」
いつの間にか隣にいた焦凍が、適当に返したであろう返事を聞きつつ、俺は考える。
正直に言うとボール投げに関しては、俺の個性は余り役に立たない。
それに、これ以降の種目は持久走・上体起こし・長座体前屈…。
これらに関しては、どう取っても俺は個性関係無く普段の鍛錬の延長に過ぎない。
それなりにいい成績は取れたと思ってはいる為、これ以降は特に個性に頼らずとも鍛錬より全力を出せば良いだろう。
最下位にならなければ除籍は免れる……、と…そういえば。
入試の時に出会った彼は、今の所個性を使っていないように見える。
一体どの様な個性だ?
このままだと、彼は…良くないのではないだろうか。
そんな彼を心配そうに見ている飯田殿に、話を聞きに行く事にする。
「飯田殿、彼は…。」
「西椋君!緑谷君の事か?…俺は正直このままではマズいと感じている。」
「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」
心配そうに腕を組んだ飯田殿の隣で、爆豪殿が噛み付いた。
……無個性?彼がか?
「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
そう驚きながらも爆豪殿に伝える飯田殿の表情を見る。
二人共、嘘をついている様には見えない。
そんなある意味注目の的になっている緑谷殿が、第一投をしようとした時。
腕に電流なものを見て、相澤先生の目が見開かれた。
その瞬間、投げられたボールは特に何事も無く落ちる。
そう、何事も無く。
平均的な数値で落ちたのだ。
「な…今確かに使おうって…」
震えながら両手を眺める緑谷殿に、相澤先生は髪をかきあげる。
「"個性"を消した。」
「!?」
皆、その言葉に衝撃が走る。
赤く光る相澤先生の目を見て、緑谷殿は何かを思った様だ。
「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。
おまえのような奴も入学出来てしまう。」
「消した…!!あのゴーグル…そうか……!
抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!!!」
いれいざー・へっど…?相澤先生のヒーロー名か?
ヒーローに疎い俺はともかく、他の生徒達も知らない者が多いようだ。
どうやら聞いた限りはアングラ系ヒーローだそうで、知る人ぞ知る…と言った具合だろう。
先生が緑谷殿に近付き、首に巻かれた布で引き寄せ幾つか話をしている。
暫くすると先生の髪型が戻り、緑谷殿にボールを手渡した。
所定の位置で沈んだ顔をした緑谷殿は、入試の時の様にぶつぶつと何やら呟いている。
きっとあれは彼の癖なのだろう。
よく考えて、そしてそれを一瞬で最良の場で出せる人物と見た。
……そうでなくては、此処を合格する事は出来ない。
投げる体勢に入った緑谷殿。
それを一つ一つ注視してみる。
第一投の様に、腕に流れる電流は無く。
しかし、ほんの一瞬に見えた電流は、ボールを押し出す最後の人差し指。
「SMASH!」
大きな音と共に、まるで打ち上げ花火のように高く高く飛んでいくボールを見て思わず驚く。
それに驚いているのは俺だけではなく、生徒皆が緑谷殿を見ていた。
そして気付く。
緑谷殿の人差し指が酷い色をしている事に。