化かし 化かされ 騙し合い


コクリとくなぎのBL本は
【題】汗ばむ薬指
【帯】祈るような目で見られることが何よりも苦痛だった
【書き出し】最近話題の映画をふたりで観ませんかと誘われた。
です
#限界オタクのBL本 https://shindanmaker.com/878367



「汗ばむ薬指」



最近話題の映画をふたりで観ませんかと誘われた。
実際にはもう少し無愛想な言葉だっただろうか。目の前の生徒は机に頬杖をつきこちらを真っ直ぐに見てくる。

「映画なんてワタシと行かずに友人を誘ったらどうデス?」
「そうだね、何の映画か分からなかったら返事出来ないよね」

つくづく会話が噛み合わない。彼、屑守くずもりくなぎはお構い無しにスマホをいじり、液晶画面に目当ての代物を写し出す。
最近話題の、と言われるほどはある。その手に疎い谷中コクリでも、タイトルくらいは耳にしていた。

「幼馴染みの高校生が卒業式に手作りの指輪を交換する話。ロマンチックじゃない?」

首を傾げ問いかけてくる屑守に、はてさてどのように返事をするべきか。
並の返答で諦めるような相手ではない。上手くかわす口実を、と頭を捻るより先にまた口を開かせてしまった。

「ねぇ、コクリ」

思わず視線がかち合った。

「聞いたことあるでしょ」

言葉の続きを待ってしまった。

「指輪をはめる指の意味」

あぁ、その先は。それ以上は。

「右の薬指は精神の安定をもたらしてくれて、左の薬指は愛と絆を深めてくれる」
「ねぇ、どっちにする?」

また首を傾げ、今度は口元に笑みを浮かべて問う彼にコクリは。
思わず、笑ってしまった。

「映画の宣伝文句そのままに語るとは。聞き惚れてしまいマシタヨ」
「指輪なんて高価な物は大人になってから知りナサイ。映画の主人公と同じく、今の貴方には少々不釣り合いデス」
「それに今日が千秋楽、しかも次の上映はレイトショー。教師が生徒を悪い道に連れるわけにはいかないデスヨネ」

余裕綽々で見せてきた情報をフル活用して宣うコクリに屑守は呆けた顔をする。
振られた、と気付いて動くには少し時間がかかりすぎたらしい。

「ほら、下校時間はとっくに過ぎてしまいマシタヨ。貴方も早くお帰りナサイ」

自身の後始末を終えた谷中コクリは一足先に社会科準備室を去る。彼が何か呼びかけたのには敢えて無視した。
あの瞬間、自分の薬指が跳ねてしまったのも、固く拳を作り誤魔化したように。


19/04/15
*Thanks*
屑守 鴒さん
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