記憶と記録の影法師。


地を揺るがすのは赤い華?



闇が深まる宵の刻。あわむぎとごまもちは身体を寄せ合ってうつらうつらとする。
馴染みであるまたたびの住み処をしばらくの拠点とする二人は、くねくねが出てから彼女のために奔走していた。それが一段落つくと知り合いへの挨拶回りもして忙しくしていた。

すやすやと寝息が聞こえるころ、窓から外を眺めていたまたたびが何かを察知する。がたり、椅子から立ち上がり二人を叩き起こす。

「んっんー!?またちゃんどうしたの?」
「まだ、夜中……」
「いいから早く!外に出るよ!」

緊迫した声色にごまもちは固まってしまう。ゴーグルを首にかけたままのあわむぎは動かないごまもちを脇に抱えてまたたびのあとを追う。
閑散とした東都の夜。駆ける獣たちがたどり着いたのは住み処から近い鉄筋コンクリート製の廃墟の屋上。獣人の姿を取るまたたびが耳を澄ませ足を踏ん張る。
地面が、大きく揺れた。

「うわっ!?地震!?」

あわむぎがよろけて、立たせてもらったごまもちはぎゅっと腕にしがみつく。またたびは辺りを警戒して目を凝らす。
しばらくすると揺れは収まり、三人は力を抜いて屋上に座り込む。

「かなり、大きかった、ね?」
「天変地異かな?」
「いや、もともと東都は異常気象が多い。これもその一つかもしれないね」
「そういえば地下が封鎖されてるらしいな」
「何か、関係がある、のかな?」

あれこれと頭を悩ませるが納得のいく答えは浮かばない。またたびが伸びをして立ち上がる。

「ともかく、明るくなってから動こうかね。戻るよ」
「そういえば、どうして外に、出たの?」
「またちゃんのところも十分頑丈なつくりのはずでしょ?」
「……本能に逆らえなかったんだよ」

ぼそり、呟くまたたびの後ろをくすくす笑いながらあわむぎとごまもちが続く。

ところ変わって。グレーテルはさっきの揺れで飛び起きてテーブルの下に隠れていた。
幸い、またたびが見つけてくれたこの住まいはちょっとやそっとの揺れでは崩壊する危険性はないはず。しかし誰しも自然には逆らえないものである。グレーテルにもそれは分かっている。

「地震危ない。今日はここで寝る」

ベッドから布団を引っ張り、テーブルの下にまた潜る。くるくると身体に巻きつけて寝転がる。

「おやすみ、お兄ちゃん」

自身の心臓に手を置き、愛する兄へと言葉を送る。そのままゆったりと眠りについた。

四人が再び眠りについた丑三つ時。真っ黒な影が東都を踏みしめる。

「二人組のうさぎ、地下鉄の封鎖、そして地震。さーて、次は何が起こるのかーな?」

くすくすと笑う三日月の周り、ざわざわと空気が揺らぐ。ぴたり、足を止めると複数の住民に囲まれた。

「影法師、今日がてめえの命日だ!」「仲間を殺ったこと、許さねえ……!」

殺意にぎらつく瞳に射抜かれても素知らぬ顔。口角を上げて三日月模様を深める。

「勘違いしないでくーれる?おれは何もしてなーいよ?ただちょっと情報を流しただーけ」
「そのせいで……!」「御託はいい!さっさと殺っちまえ!!」

一斉に襲いかかる住民たち。気が荒立って我先にと形振り構わず影人姿の三日月の身体を貫こうとする。

「ああ、一つだけ忠告しておーくよ」

三日月の声なんて、誰一人として聞こえていなかった。
誰かに触れられる寸前、影に沈んだ影法師。相討ちとなる者や予測して止まる者、いろいろだったがみな一様に地面に這いつくばる。
大きな余震がやってきた。ぐらぐら揺れる大地は近くの廃墟をいとも簡単に崩してしまい。住民たちは瓦礫に押し潰された。

「東都は上手くいかないことばかりだーよ。なーんて、もう聞こえなーいか」

ずるり、影から出てきた三日月は瓦礫の山から流れる赤を目にしてにぃたり。空を見上げて月をその宵闇の瞳に映し込む。

「次は何が起こるのかーな?」

くすくす笑ってまた影に沈む。

ほどなくして地震の脅威は急に収まった。そのあとに現れたのは奇妙な『華』だった。


15/05/06
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