2014年7月


久しぶりに遊ぼうな。



蝉があちこちで鳴き始めた夏休み一週間前。夢路町各三校の掲示板には課外実習についてのお知らせが貼り出されていた。
共学では、黒髪の青年が無表情で、しかし雰囲気は堅く、頭を掻きながら紙を見ていた。一日目の内容は川辺でのキャンプらしい。否応なしに水の近くに行くことが決定している。今から気分が沈むが、参加しないわけにはいかない。青年は地獄の宣告と向き合っていた。
男子校では、くすんだ山吹色の少年が眉を下げて紙を見ていた。一日目の内容は体力作りといえば伝わるだろうか。学校近くの海辺でランニングと遠泳を行うようだ。さすがはメイヤール・グループのお膝元といったところか。やることが半端ない。周りの生徒にも苦悶の表情が窺える。
女子校では、黒髪ショートの少女がうきうきわくわくと紙を見ていた。一日目の内容は山でハイキング、すでに遠足気分でいる様子だ。頭の中は持っていくおやつでいっぱいなのだろう。

その下にも目を走らせ、全内容を確認すると、三人はそれぞれ自分のきょうだいを思い浮かべる。二日目からは三校が合流して合同の課外実習があるようだ。といっても自由行動が許され、一種の交流会とも言える。

少女は少年に電話を、少年は青年に電話を、青年は少年少女にメールをしようとする。少女は少年に嬉々として話をしながら、少年は苛ついた様子で悪態をつきながら、青年はメールを送信して返事を待つ。
電話を切り、メールに気づいた少年少女は嬉しそうに返信をする。青年に届いたメールには「楽しみにしているね」「おっけー!(*・∀・*)ノ」とあり、どちらからも了承を得られた。受け取った青年は「じゃあ二日目に」と再度送信する。

メールを確認して、少年少女はまた連絡を取り合い、明日の放課後に商業区に出向いて必要なものの買い出しをするそうだ。大好きな兄からの誘いだ、二人揃ってその日を楽しみに張り切っているのだろう。

青年はふぅ、とため息を一つ。恨めしげな雰囲気でじとりと掲示板とにらめっこ。しかし楽しみを作っておけば、つらいことも乗り切れるというもの。せっかく夢路町に兄妹三人が揃っているのだ。会わない理由なんてない。
くるりと踵を返し離れる彼のズボンのポケットからは薄緑の紐に繋がる灰色の獏が顔を出して、歩くたびに跳ねるように揺れていた。


14/07/23
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