言葉と涙は溢れたところ。


さがしものとなくしもの



とある夏の日、炎天下の中を一人の青年が探し物をしていた。表情は歪んで今にも泣き出しそうなのは一目で分かる。
あっちこっちするうちにどこだか分からなくなりそうなビル群を抜けて、青年は声を震わせる。

「今日は、大事な日だって、あんなに言って、おいたのに……」

不安から目尻に溜まった涙が雫となってこぼれる。それはもう捻るのを忘れた蛇口のようにぼたぼたと。地面に落ちると熱で蒸発していった。

「本当に、どこ行ったの……?」

あわむぎ。
心当たりは粗方探した。あと一つ、思い当たった場所に向かう。

コンクリートジャングルを進み、見えてきた緑に心から安堵する。
環境保全指定公園、彼のお気に入りの遊び場で困ったときの集合場所。

「あわむぎ、あわむぎ……?」

少々声を張り『名前』を呼ぶ。反応は、未だになし。

「もう、ぼくだけで……ひぃぃいい!!?」

近くの木から何かが茂みに落ちる。がさがさ鳴る音に呼応して青年の震えが増していく。緊張が極限に達したとき、卒倒、しかけた。
出てきたどんぐり目がくるりと回る。

「あれ、ごまちゃん。どうした?何かあった?」

大きな欠伸をして声をかけてきた野生児。青年、ごまもちの探し物はようやく見つかった。



──────────



「あわむぎ、の、ばか……」
「だから何回も謝っただろ?ごめんってマジで。いや忘れてたわけじゃ……」

あまりにも言い訳がましいので、ごまもちが威厳のない睨みに少々怒りを含ませる。ようやく事態の重さを把握したあわむぎはもう一度、ごめんと謝って肩を並べる。

お揃いのつなぎ服が宮浦を歩く。太陽は西に傾き、夕暮れの橙が大都市を彩る。

「あれからもう何年になるんだ?」
「えっと、うん、結構経つ、かな?」

行き着いたのは共同墓地。国籍や種族が多様なここでは墓の種類もさまざま。
二人が探す目当てに一発でたどり着けたのは今回が初めてだった。

「久しぶりだな」
「久しぶり、だね」

墓標に刻まれた文字に二人は目を細めて思いを馳せる。

あのころは若かった。だからこそ、行動力にも判断力にも欠けていた。
結果、招いたのは大切な仲間の死だった。

墓前にて手を合わせ。急だったからお供えを忘れたのと掃除が出来ないことを詫びて。
陽がとっぷり暮れるまで語らった。それはまるで目の前に『彼』がいるのと変わらないように。

「さて、と。やっぱこの時間帯は冷えるな」
「うん、そろそろ帰ろう、か?」

二人は深々と一礼、先に頭を上げたあわむぎが懐かしむように名を呼ぶ。

「じゃあな『たっちゃん』!また来るからな!」
「今度はお菓子とか、忘れないように、するから」
「おいらは休みに掃除したげるから。ちょっとだけ、待っててな?」

ゆっくりと離れ、振り返らずに二人は帰路に着く。

お盆のとある日。あわむぎとごまもちは墓参りを静かに終えた。


17/08/26
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