三月の満月は三日月にならず。
3月31日
高校生でいられる最後の日、卒業式から袖を通していなかった制服を着て、お気に入りの鞄をかついで外に出る。
三年間どんなことも一緒に乗り越えてきたのに、ここ数日離れただけでとても昔のように感じた。
道中で出会った同級生からは笑われてしまった。最後の思い出作りに!と話せば、楽しんでね、と返させた。
通学路を通って高校まで行ってみた。部活に励む下級生を見て、自分もそうだったと懐かしく思う。
明日からは4月、もう楽しかった高校生には戻れない。
一つ大人になるために、幼い自分とさよならするために、少女は髪をなびかせ歩いた。
少し、遠出をしてみたい。
これまでの自分から一歩成長するために。
近くの駅に足を伸ばした。電車がやってくるまでにはまだ少し時間があった。
目の前を行き交う雑踏を眺めながら、春麗らかな陽気に睡魔が顔を出す。
ひらひらと薄桃が視界を過ったのを最後に、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
『次は……終点、終点……』
じわりと耳に届いたアナウンスに少女は目を覚ます。
辺りはすっかりと暗くなっており、思わず座席から飛び上がった。
「えっ、うそ!わたし寝すぎじゃない!?」
鞄をひっつかみ電車を降りる。そういえば、いつの間に乗っていたのだろうか。寝ぼけていたようで覚えていない。
ホームを出る。見慣れない改札を抜けて迷いながら進む。来たとき通った道ってこれだったっけ?と思うが、それよりも早く家に帰らなければ。
少女が一歩、駅を出て見えたもの。
それはこれまでの常識を覆す光景だった。
「ここ、どこ……?」
灰色の世界、なんて言えば文学的だが。本当に灰色一色で。
崩れた建物、散乱する瓦礫、どれも壊れたり長い間ずっと放置されていたような物ばかり。自分の知る街はそこになかった。
振り返った駅舎には、東都の文字が霞んで見えた。
18/03/31