水面に映るキミはダレ?


夏が来た



また、この季節がやってきた。

「ったく、あっちぃな……これだから夏ってやつは……」

黒く日焼けした大男が一息、ぼやく声に仲間も同意する。

皆が一様に蓮の紋様を身体に刻む、住民の有志により結成された自警団。この厳しい世界でも、秩序を持って住民に手を差し伸べる存在。
だからと言って特別な能力があるわけではない。住民特有の異能に目覚め、その上で他を助けようも意識あるものたちが集まった存在だ。

さまざまな場で彼らは活動する。呼ばれずとも必要性を感じれば颯爽と現れる。
そんな便利屋よろしき彼らであっても茹だるような暑さには涼を求めて影間を探す。と、思ったらいくつかの気配が急に消える。

暑さに負けて溶けたのか?そんな頭がわいた考えしか浮かばない。
しかしまた一人、また一人。ようやく異変に気がつく。

「ま、さかっ!?おいっ、みんな、……っ……」

逃げろ、それは言葉となる前に大男と残りの存在ごと消えた。ちゃぷん、と小さな小さな水音を残して。

「ふっふ~ん、今年もナツが来たね~」

静かになった場に落ちた愉快な『声』。
するっと姿を現したのは怪異、トモカヅキ。お気に入りの影法師の姿となり口元を歪める。

「トモちゃん、普段は大人しくしてるんだけどさ~?この時期ばかりは動きたくて仕方ないんだよね~」

誰もいないのに『言葉』がつらつらと。心踊るのか異質な影から出てきょろり。
ぱんっ!と手を打てば、波打つ空気とさざめく影の水面。怪異としての本性が開花する。

「お腹いっぱいなんだけど、またランク上がっちゃうかもしれないね~?出来ること増えるかもだし~、それもいいかな~」

足元から広がるトモカヅキのテリトリーと甲高い笑い声。この夏、東都の住民が怪異の影に落ちる。


17/08/12
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