愛・舞・味。
『怪異』の規則性とは
双子は歩く、猫又を探して。猫又は歩く、双子を探して。
導かれるようにして出会った場所は東都駅。
「おや血塗れツインズ、会えてよかったよ」
「ぼくたちもだよ」「だよ、だよ」
再会も束の間、東都に響くトートの声。公共放送を受けてそれぞれが思うのは。
「やっぱり『怪異』だったんだ」「だった、だった」
「その様子だと、あんたらも数多の死体を見たのかい」
「うん、宝場で」「宝場、宝場」
「あたしゃ西区だったね。なるほど、広範囲だね」
「『怪異』は同時に二つ以上は発生しないんだよね?」
「長く東都にいるけどこれまでに見たことないね。今回もきっと一つの『怪異』だろうけど、断定は出来ないね」
「またたびさんでも分からないんだ」
「全知全能じゃないからね」
「トートさんも調査中ってことはまだはっきりとは分からないんだね」
「あれも東都をよく知るってだけで神じゃないだろうからね」
「神様か……」
東都駅を見上げ、片割れは笑う。その表情から彼の心中を読み取れることはない。
「一つ、言っておくよ。『怪異』には近づくな。巻き込まれたら最後、ただじゃ済まないよ」
「ふふっ、またたびさんは優しいね。気をつけるよ」「つける、つける」
双子は笑って手を取って。くるくる回って互いにキスをする。言っても聞かないことは重々承知。猫又は嘆息する。
「ま、あたしゃあんたらを拘束する力はないからね。忠告だけにするよ」
「一応肝に銘じるよ?」
「軽い言葉はいらないよ」
双子はなお笑う。ふと、空気を変えたのは猫又だった。
「ネクロの坊っちゃんはさっきの放送に違和感を覚えなかったかい?」
「違和感って?」
「『怪異』の被害があるのは三日間、それも金、土、日。ご丁寧に曜日まで分かってる」
「三日間をしのげばいいってことでしょ?」
「そうさね、その三日をどうにか乗り切れば脅威に晒されることはない。だけどね……」
猫又の瞳が鋭い光を宿す。
「誰がその曜日を分かるってんだい?」
双子の笑い声が、止まった。
「今日は何月何日、何曜日。東都において日付を気にすることがなくなってしまったのに、案内人は曜日指定をする。ここにもまだ、時間以外にその一日を特定するものがあるなんてね」
「ま、これについてはあまり深く考えることはないかもしれないね」
肩を竦めて小さく笑う猫又に片割れは目を閉じて情報を整理する。
「今日が何曜日かは分からないけど、三日連続で被害があるんだよね。ぼくたちがたくさんの死体を見つけたのは今日の話だよ」
「あたしゃ昨日だったかな。……つまり、明日も『怪異』による被害が出れば曜日が確定される」
「そうしたら、どうなるの?」
「その情報を生かすも殺すも自分次第さね。最も、案内人が何を意図して放送を流したのかは判然としないけどね」
東都駅を一瞥、猫又は歩き出す。
「もう行っちゃうの?」
「あんたらには伝えるべきことは伝えた。まだ会わなきゃいけない奴がごまんといるからね、これで失礼するよ」
「分かった、気をつけてね」「つけて、つけて」
「はっ、ツインズに言われるまでもないよ」
歩き出す猫又、見送る双子。
そういえば、と双子はアイコンタクト。少女はあるものを求めて走り出す。
「待ってまたたびさん、見せたいものがあるの」
「ん?何だい?」
「たまたま見つけたものなんだけど……来た」
戻ってきたグレーテルの腕には何やらもこもこしたものが。
「何だいそれ?嬢ちゃんが食べるのかい?」
「食べないよ、だっておもちゃだもん」「もん、もん」
ふーん、とまたたびが観察しようと近づいた瞬間、大量のもこもこが騒ぎ出した。
ヘンゼルとグレーテルは目を丸くし、さすがのまたたびも驚き飛び上がる。
「一体何なのさ!!」
「ぼくたちもびっくりした……またたびさん、一つどう?」
「要らないよ!!早く返してきな!」
あまりの必死さに双子はくすくす笑ってしまう。もこもこも反応して辺りに大合唱を響かせた。
15/01/24
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