猫又は今日も廃墟を闊歩する。
桃は咲き、白梅は散る
深夜の駅前。
猫の着ぐるみがふわふわと雛壇の後片付けをする脇をまたたびは通り過ぎる。駅構内は賑やかしく、誰かがひな祭りに興じて宴会でもしているようだ。
「全くもって呑気なものだね……」
掲示板の前で立ち止まり。書き込まれた情報に目を走らせる。
「おや、白澤のは消されたのか……」
華獅が首をはねたのを見たのはもう随分と前のような気がする。そして小さくなって戻ってきたのすら。
ふと、真新しい書き込みに目が止まった。
「手紙……?」
案内人が代筆したという内容にざっと目を通す。
親愛なる我が子、拾年ぶり、参月肆日。どうやら何者かが東都を訪れるらしい。
「愛を語るのはろくな奴じゃないね。十年前ってなると……」
うっすらと記憶にあるような、ないような。判然としないがしかし、文面から現れる雰囲気にいいものは感じない。
「大切な、遺産……」
何やら意味深な言い方も気になる。所々読めなくなっているのは誰のせいか。
案内人がわざと書かなかったのか、それとも……。
禄通目、漆通目はまたたびをますます不審にさせる。手紙には、東都に来る前に現世に行くとある。
「なら、今はどこにいるのさ?」
東都でも、現世でもないところからやってくる人物。眉間に深く皺が寄る。
「会ってみないとはっきりしないかね……。時の流れに任せるか」
掲示板から目を離し、駅前を去ろうとするまたたびの周りに幾多の影。
『猫又だ』『猫又だ』『猫又だ』
「影人か、あたしゃ今あんたらに用はないよ」
『影法師殺そうとした』『でも失敗した』『生きてる』『影の中で生きてる』
「ちっ、やっぱり仕留め損ねたか」
くるくる囲み、ひょろっとした文字を連ねる影の集団。またたびは無視してすり抜ける。
「あの死に損ない、次に会ったら容赦しない」
『猫又怖い』『猫又凶暴』
「うるさいよ」
一喝すればシャドーマンはおずおずと引き下がる。かと思ったらまだついてくる。
『影法師生きてる』『まだ死んでない』『死にかけは他にいる』
『死にかけは想い人』
目を、疑った。立ち止まり、振り返り。
くすくす、くすくす。烏合の衆は笑い声を潜める。
『小さな白澤が死にかけ』『東都の理に触れようとした』『案内人を傷つけようとして返り討ち』『轟々と焼かれて真っ黒焦げ』『治療も温泉も効かない』
『助からないかも』
ぶわり。空気が膨張する。
シャドーマンは蜘蛛の子を散らすように消え、残ったのは殺気で毛を逆立たせるまたたびのみ。それもすぐに落ち着き、大きく息を吐く。
「いやだね、どうも白澤が絡むと気が急いていけない」
自嘲し、旧都市部へ向かう。
15/03/07
*Thanks*
華獅さん(名前のみ)