猫又は今日も廃墟を闊歩する。


相棒との別れ



ずき、ずき、ずきり……。

「つぅ……」

ずき、ずき、ずきり……。

「ったく、何だっていうのさ……」

脳に響く鈍痛、またたびは頭を抱えた。
体調の変化はこれと言ってなし。言うなら頗る良好。なのに、この頭痛。

「何かの予兆かね?悪い報せじゃ……っ!?」

なきゃいいが。

その言葉は呑み込まれた。
何かが途切れないように、何かを閉ざさないように。蓋がされないように抉じ開ける。
二人の、あの無邪気と泣き虫な二人との記憶。
爪を腿に突き立て、歯を唇が切れても食い縛る。

「あわ、むぎ、ごまもち、っ……!」

言葉にすればこちらのもの。盗られずに上手い具合に留まった。
途端、弾かれた身体には知らず【種族変化・陸しゅぞくへんか・リク】が発動した。神経を研ぎ澄まし、本能のままに走り出す。
目指すは東都、宝場。二人の最期の足取り。潰えた痕跡。

「あの『怪異』か……!」

以前に一度、一度だけ相対したことがある。あのときは何なのか、全く分かっていなかった。ただ、目の前の憎き男を消してくれた存在、それぐらいの認識だった。

今は和解した影法師から聞いた真実。
影に潜み影を泳ぐ怪異。何らかの妖怪の類いらしいが詳細は知れず。それが影法師の肉体を食らい、彼は人間から種族を変化させた、と。

辿り着いた宝場はもぬけの殻だった。
眼下の影に気配はない。影法師も、あの怪異も。

「よりによって、あの二人に牙を剥くなんてね……」

怒りにより火照る身体、しかし頭だけは客観的でどこか冷えきっており。

幼い自分が拾った小さな命。恩師が育んでくれた二人の命。
いろんなことをした。いっぱい遊んで、いっぱい笑って、いっぱい泣かせて。
いっぱい、いっぱい。

思い出が巡るたび、ずきっとまた痛みが走る。
この廃都市は記憶までも風化させるつもりなのか。

「……抗ってやるよ、生きてる限りはね」

定められた運命を歩くのはまっぴらごめんだ。

問題児なのは昔から。古株で知らない者はいない。

「あの二人はこのまたたびの中で生き続けるのさ」

猫又が呟けば。

「だからこそ、一緒に逝けてよかったね」

空気が揺れる、じわりと淀む。

「だからと言って、ね?」

そして、突如爆発する。

「怪異、あんたは許さないよ」

地面に走った亀裂は影を割る。決意の目は鋭利に光った。


17/06/27
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