愛・舞・味。


酸いも甘いも舌鼓



ばりばり。もぐもぐ。
グレーテルはラムネとチョコを交互に食べる。酸味と甘味が程よく絡み合う。

「お兄ちゃんと食べたかった」
「おや嬢ちゃん、珍しいものを持ってるね。どうしたんだい?」

振り向くとまたたびが立っていた。匂いに引かれてやってきたのか。
しかし人の姿であるのは散歩をしていた証拠。単にグレーテルを見つけて様子を見に来ただけなのかもしれない。

「またたびも食べる?トーイからもらった、ラムネとチョコ」
「また着ぐるみが駅前で何かしてたのかい?」
「うん、バレンタインって言ってた」
「そういや、狸の旦那もそんなこと言ってたか……」

隣に座り、懐から小さな箱を取り出す。

「これ、なあに?」
「なんたらってチョコらしい。旦那から分けてもらったんだ。嬢ちゃんにやるよ」

ひょいと掴んで箱を開ける。中には抹茶に包まれた生チョコが並んでいた。
迷うことなくぱくり。
箱ごと口に入れたグレーテルにまたたびは目を丸くする。

「本当、何でも食べるんだね……」
「全部美味しいから」
「そうかい。ならよかったよ」
「またたびも、はい」

うっすらと開いていた口にラムネを放り込む。またたびは噎せながらもどうにか嚥下した。

「げっほ……嬢ちゃん、やってくれるね……?」
「告白ラムネ」
「……は?」
「このラムネの名前。告白せずにはいられないって。トーイが言ってた」

血相を変えて口を押さえるまたたびの隣で何事もなくグレーテルはラムネをぽりぽり。

「……あんたは、何ともないのかい?」
「うん。だって効果はもらった日だけって言われた」
「いつ、もらった?」
「ちょっと前」

押さえる手をそっと離してみる。なるほど、無理やり言葉にしたいという欲求はまたたびにも現れなかった。

「ったく、脅かさないでおくれよ」
「誰かに告白したかった?」
「はっ、まさか。このまたたびがそんなことするとでも?」
「すごく焦ってた」

グレーテルの真っ直ぐな視線にまたたびは口をつぐむ。

「またたびは黙りすぎ。もっと気持ちを出せばいい。お兄ちゃんがいつも言ってた」
「……心をさらけ出すことで弱みを握られるのは嫌なのさ」
「そうじゃない。思ってることは言っても大丈夫。そうしないと伝わらない。白澤にも伝わらない」
「どうしてここで坊っちゃんが出てくるのさ?」
「掲示板。見たら分かる」

それきりぱくぱくと咀嚼に勤しみ、ぱちんと両手を合わせてごちそうさまをする。

「チョコありがとう。ばいばい」

グレーテルは手を振り、呼び止めるまたたびを気にせず歩き出す。
お腹は膨れた。今日はどこまで行こうか。


15/02/28
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