言葉と涙は溢れるばかり。
山林の芽吹き、相棒の目覚め
春の日差しが心地いい昼下がり。
山林の一角、草むらで隠れた洞穴から、獣人が一人顔を覗かせた。丸っこい耳とどんぐりのようなまん丸の目で異常がないことを確認し、外に出て大きなあくびと伸びをする。
「もうすっかり春だな……。ほら、ごまちゃんも出てきなよ!気持ちいいよ!」
中に向かって大声で呼びかけると、恐る恐るもう一人が出てくる。こちらは至って普通の人間のようだ。
「あわむぎ、ちょっと、静かに……。ここの住民たちに、見つかっちゃう……」
「だーいじょぶだいじょーぶ!ちゃんと確認したもん!」
「……それなら、いいか、な?」
周囲を異様なまでに警戒しながらぴったりと隣に並ぶ。
「あっはは!ごまちゃん怖がりすぎだって!山林はおいらたちには庭みたいなものじゃんか!」
「でも、ここじゃ、何が起きるか、分からないし……」
レッサーパンダの獣人、あわむぎが自分にくっついて震える人間、ごまもちの頭をゆっくりとしっかりと撫でると、少しだが彼の表情が和らいだ。
「冬は山林でいっぱい遊んだからさ、そろそろまたちゃんに挨拶に行こうよ」
「去年の秋ぶり、だから、ね。元気かな……」
「風の噂だと、いろいろやらかしてるらしいから。それなりに元気なんじゃないの?」
「またたび、らしいね」
あわむぎは色付きゴーグルをつけ、ごまもちはお揃いの迷彩柄つなぎを整え、並んで山林を下る。昔馴染みの顔を見るために。
しかし山林に蔓延る不思議な現象にはまだ気づいていないようだった。
15/04/12