酒は百薬の長。
お題「独りよがり」
縛り「倒置法を一度だけ使うこと」
独りよがり
どこにいても、何をしても、自分は一人でやっていける。そう自負していた若い時分があった。
表向きは商売人として、裏の顔は藪医者として、たくさんの人間とさまざまな形で関わって分かったことがいくつかある。
一つは、何事もお互いさま。助け合うことで切り開くことが出来るということ。
一つは、善悪の存在は思い通りではない。いつでも裏切り、裏切られるということ。
良し悪しはあれど一人では出来ないことばかりである。
花街に身を潜めば、細長い月や幻に夢を見て。廃都市に身を置けば、自由を手にしたと勘違いをして。
本当に欲しいものはいくつになっても手に入らない、とようやく理解してから日は浅く思う。
「本当に脆く愚かしいものだ、僕の中の願いも貴方の存在すらも」
自分が秘め通そうとした思いも、心にひっそり留めようとした面影も、すべて抱えて戻ってきてしまった。
何とも未練がましいが、一度は捨てたこの場所がやはり一番性に合うらしい。
懐かしい駅を出て迷うことなく進んでいく。
向かうのはかつての拠点、信頼なる友が足繁く訪れた自分の居場所。
この都市は本当に不思議にあふれている。あれだけしっかり燃やし尽くてもらったはずの建物はすっかり元通りになっていた。
中は空っぽ。少々焦げ臭さが残るものの、あの静かな店内を彷彿とさせる。
これから新たに揃えるものも数多い、しばらくは宝場に通うことになるだろう。
酒豪屋と闇医者、二つの顔を持つもぐりの時間が、また動き出す。
18/07/01
3/3ページ