記憶と記録の影法師。
「お酒に映る月」
昼間の陽光をもたらす光源はとっぷりと地平線の彼方へ。今は真ん丸お月さまが顔を見せる。
徳利にとくとくと注がれた美酒に鼻を擽られ、思わずくしゃみが出そうになる。
「相も変わらず酒気には弱いようで」
「それなのに酌をさせるおまえは質が悪いーね?」
「褒め言葉として受け取ろう」
誰も褒めてないのに。
そんな三日月の気持ちを知ってか知らずか、もぐりは口元に笑みを浮かべながら徳利を覗く。
「今夜は一段と月が綺麗に見える。みかげのおかげだろうか」
「おれよりも、こっちで輝くお月さまに会えたからじゃなーい?」
「おや、」
三日月の口から出た『月』にもぐりは思わず声が漏れた。
地上の闇に溶けることなく、時にきらめき、時にぎらつくあの黒と金。
「……どうなの?」
「はてさて、どうだろうか」
素直じゃなーいね、と三日月が言えば。お互い様だろう、とだけもぐりが答える。
今夜の酒盛りは遅くまで続きそうだ。
18/07/21