猫又は今日も廃墟を闊歩する。


お題「逃げ道」
縛り「戦闘シーンを入れる」



逃げ道



この廃都市に秩序はない。
人外化の影響により元は人間だった『住民』たちが廃墟郡の先住民である『怪異』と繰り広げる命のやり取り。

ここでは何を求めても、何を諦めても自由。
法はない、常識は通用しない。だからこそ『彼ら』は勝手気ままに生を謳歌する。
長年、東都でしぶとく生き抜いてきた猫又のまたたびもまたその一人。
彼女は雨が伝う窓を眺めていた。

「こればかりはやはりいい気がしないね」
「……雨が、かね?」

声をかけられ室内に目を向ける。先ほどまで不恰好なトライフルをつまんでいた書生、外野がいやが目で訴える。

「おかわり。いただけるだろうか」
「こりゃ参ったね、まだ食べる気かい?あんな見た目じゃ物好きだってそう食べないだろうに」
「味はいい、だから」
「あー、分かった分かった。胸悪くなっても知らないからね」

元来、料理に無縁な彼女がお菓子作りとは。明日は雪が降るかも、とその恋人なら言うだろう。
しかし何事にも刺激を求める性質ゆえに飽きるまでは手を出すつもりらしい。

透明なガラスカップに盛られたスイーツに目を輝かせる外野はスプーンを運ぶ手が止まらない。

「……そうだ、あんたに付き合ったんだ。今度は食後の運動にでも付き合っておくれよ」

お互い鈍った身体が解れるから一石二鳥だろ?と誘いかけるまたたび。
外野も何となく納得してかき込んでいく。

雨足の弱まった頃合いを見計らい、二人はそれぞれ外に出る。
欠伸をして身体の節々を伸ばすまたたびと武器である巨大な筆を召喚して素振りをする外野。

「さてと、準備はいいかね?」

またたびの言葉を皮切りに外野は一気に身が引き締まる。

ここは東都、法も常識も通用しない無法地帯。
先ほどまで談笑していた相手が急所を狙って牙を剥いたとしても文句の一つも言えない。

「よくもまぁ……避けられたものだね?あと一瞬遅かったらここら一帯血の海だ」

けらけらと笑う彼女に外野の背には冷や汗が一筋。咄嗟の判断で飛び退いて正解だった、いつの間にか鋭利に伸びたまたたびの爪が地面を抉り取ったのだから。
避ける際に一泡吹かせようと振るった筆は簡単に弾かれ、腕にじんじんと痺れだけを残した。

「手加減、は」
「するわけないだろ?甘味みたいに甘いこと言うんじゃないよ。これは腹ごなしでもあるんだ、食べた分消化しな」

にたり、笑うまたたびの狂気を隠さない視線に外野はまた背筋に冷たいものを感じた。

そろそろ梅雨が終わる、もうじき夏がやってくる。
『怪異』がいつも以上に嬉々として『住民』を襲い食らう季節。
その前に、目の前の化け物に食われないように頭を働かせるのが今の彼には精一杯だった。


18/06/26
*Thanks*
外野 独輝さん
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