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日当たりの良い花畑に穏やかな春の花あり。


お題・夏デート/雨宿り/君を思い出す



秘めたる慕情はあまりにも筒抜けで



ツバメが地面すれすれを飛んでいく。トレイシーは彼らに道を譲り、SUNriseへの帰路をまた歩く。
花柄のショールに施した日除けの魔法もそろそろ切れる頃合いだ。太陽の国の日差しを直に浴びるには、まだまだ早い時間。見慣れた看板が見えてきてひと息つく。

「おかえり、暑かったでしょ」

いつもは来客を知らせる入口のベルがオーナーの帰りを中で作業をしていたつぼみに告げる。
お疲れさま、の意も込められたつぼみからの労いに、ただいま帰りました、と手提げを渡してトレイシーは魔法を解いた。

「やっぱり配達はぼくが行けばよかったかな」
「いえ、久しぶりに会うお客様だったので。顔を見たかったから構いませんよ」
「ならよかったけど。これは?」

手提げを受け取ったつぼみは目をぱちくりさせる。出かけるとき小包みしか持っていかなったため、その反応も当然だろう。

「たまたま見かけた露店で調香に必要な物が安かったので。つい」

良い物が揃っていた、と思い出しながら話すトレイシーに、つぼみも興味が湧いたらしい。次は一緒に行きます、と中身を覗きながら言葉にした。

「こちらは変わりありませんか。何か急ぎの用事とか……」
「特になかったよ。ぼくもやりたいことやってたしね」

作業台を見ると、今度はトレイシーが目を丸くした。
つぼみが、普段どこに行くにしても徒歩を貫くつぼみが、自身の箒の手入れをしていたらしい。穂先を切り整え、結び目の紐を変え、今は柄の手入れに入るところのようだ。

「どこかに出かけるのですか?」
「いや、うん、まぁ……トレイシー、明日の予定は?」
「SUNriseは定休日ですし、調香の予約もありませんし」
「じゃあそのまま空けておいてね」

良かった、とつぼみが呟いたのを聞き逃さなかったトレイシーは、思わず頬が緩むのを隠すのにそっとアロマ棚へ移動する。思惑通り、つぼみは彼女の表情の変化に気付かなかった。

「何か、そうね……香油などは必要かしら。今なら買い物をしたおかげで材料は揃っています。何でも作れますわ」
「本当かい、じゃあハーブ系でお願いしようかな」

なるほど。おしゃれを優先するよりも虫除けがほしい、と。
つぼみの考えがこれほど手に取るように分かるのも、先日客人から教えてもらったピクニックに最適な場所をトレイシーも聞いていたからだろう。

「多めに作っておきますわね。明日、晴れるといいですわね」

一縷の望みを言葉にする。言霊として力を発揮してくれますように。



──────────



翌日。トレイシーの思いも虚しく生憎の雨模様。昨日の太陽も、今はどこへやら。

「そう悲観することはありませんわ。あなたの子達はとても嬉しそうよ」

淹れたての珈琲を片手に、トレイシーは裏の庭で雨粒と戯れる、つぼみが丹精込めて育てる植物たちを眺める。しかしつぼみの心はなかなか晴れないようで。

「せっかく準備してたのに……」
「良いではないですか。サンドイッチもクッキーも紅茶も、雨だからといって消えたりしませんわ」
「そうだけどさぁ……」
「一応、あなたが立てていた予定を聞いてもよろしいかしら」

トレイシーからの投げかけに、机に突っ伏していたつぼみはようやく頭を上げた。
今日は、つぼみの箒に二人で乗って、トレイシーが推測した通りにピクニックへ。その後、いつの間にか下見をしていたとのことで、近くの湿地帯にあるオモダカを見に行く流れだったらしい。

「ちょうど咲く頃だと思ってね。天気まで確認するのを怠ってしまったよ」
「そのようですね。昨日あんなにも一生懸命に、楽しそうに箒を触っていたのが懐かしいですわ」
「トレイシーを乗せて飛ぶって思うと、妙に気合いが入ったんだ。それに、せっかくデートをするなら良いところ見せたくてね」

つぼみの素直な気持ちに、トレイシーは少々困ったように笑った。
こんなにも真っ直ぐな彼の思いは、いつ受けても心地良いが、今日ばかりは雨の予報を教えなかった昨日の自分を叱責したい。だが、伝えたところでつぼみはどうしていただろうか。
後悔しても時間は戻らない。逡巡ののち、トレイシーは新しく淹れた珈琲をつぼみにも渡す。

「それで、この後のご予定は?」
「えっ、それは……考えてなかったな……」
「あら。デートはしてくださらないの?わたくし、予定を空けておりますのに」

期待していましたのに、と大袈裟にため息をつくと、今まで萎れていたつぼみが珈琲を一気に飲んで立ち上がった。これで、もう大丈夫だろう。

「待ってて、今日を最高の一日にしてみせるから!」
「つぼみがそう言うんですもの、楽しみにしていますわ」

途端に慌ただしく動き出したつぼみの表情には光が差して。見守るトレイシーの心にも晴れ間が見えた。

鳥たちが身体を寄せ合ってSUNriseの軒下で雨宿りをする。雨が止むのはもう少し先。


25/09/15
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