日当たりの良い花畑に穏やかな春の花あり。


・(共通企画の)しゅくはなキャラさんで書くこと
・お題は全て使うこと(文字改変可)
①指をからませて手をつなぐ/②花を育てよう/③きみのトナリ



きみのトナリで、どんな花を育てよう



「清らかな水、豊かな土壌で、根を張りすくすくと育ち、いつの日か大輪となれ」
「春野蕾、これからはそう名乗るのですよ」

幻覚の魔法使いトレイシーから祝福を受けて、晴れて弟子となってはや、はや……年月を語るのはよしておこう。年寄りのように感じてしまうのでね。

太陽の国、SUNrise。我が師であるトレイシーがオーナーを務めるアロマショップで働き始めて、たくさんのことを学んだ。
立派な魔法使いとなるべく、日常魔法から始まり、自分に適した魔法属性を見極め、磨くために毎日が修行だった。その一環として、SUNriseでの植物の世話がぼくの日課になるのは当たり前だったのだろう。
種を植え、水をやり、芽吹きを喜び、大きくなると花が咲く。故郷の春の国の植物も、太陽の国の温湿度や日照時間に対応するよう少しだけ手を加えたものを生育している。

トレイシーは植物魔法が専門ではないため、基盤となる魔法の基礎は教えられてもその先は、といつも言っていた。その分、その道の書物や理解ある魔法使い様へ繋いでくださった。おかげで自分の魔法を見つめることができ、今では育てた植物から香りを抽出するのもお手の物となった。
これがきっと、根を張りすくすく育ち、ということなのだろう、とようやく分かってきたのだから、ぼくもまだまだ青いな、と自覚せざるを得ない。

今日も日課の水やりのために、SUNriseの裏、緑生い茂る庭に出る。じょうろから降り注ぐ水が弾いて葉がきらきらと輝く。この瞬間が本当に綺麗で。

「つぼみ」

 振り返ると、トレイシーが木漏れ日の中に。彼女のブラウンソバージュもきらきらと輝く。この瞬間が、そうでなくとも本当に。

「新しい子でしょうか?」
「そうだね、この前帰省したときに仕入れたんだ」
「よく育っていますわね、さすがです」

この歳になっても褒められると嬉しいもので。ありがとうございます、とつい畏まってしまう。
ぼくのことはお見通しなトレイシーだから、気が緩むぼくの髪に指をからませ、まるで手をつなぐように。その仕草にドキッとしないわけがない。

「ねえ、つぼみ」
「はい」
「あなたも、そろそろ大輪となってもいいのですよ?」

彼女の弟子となり、魔法を覚え、かれこれ何度目かの言葉。
弟子ではなく、魔法使いとして一人前に。
トレイシーと肩を並べて、堂々と立つために。

彼女は望んでくれるが、ぼくはまだ。

「まだまだ未熟なぼくは、貴方のそばで、どんな花に育つのでしょう?」
「どうでしょうね。わたくしには予見の魔法は使えませんので」
「じゃあ仕方ないね、しっかり育つまで見ててもらわないと」
「そう言っていつもはぐらかすのですから。ずるい人」

トレイシーがぼくの目の前へ。髪から指へ移動した彼女の体温を直に感じて熱が集まる。

「わたくしの隣で、花咲かせるのですよ。この庭の、どの植物にも負けないように」
「努力します、我が師トレイシーのために」

なんて改まれば、恥ずかしさに負けて笑ってしまった。

願わくば、貴方の時間の中に、春野蕾という存在を刻み込めますように。
消えない存在として残っていられますように。
植物と同じく、枯れてもまた種となり、芽吹き、花を咲かせられますように。


24/08/27
2/2ページ
スキ