CQCQ、わたしはここにいます


支樹おしんへのお題は『世界中の幸せを二人じめして』です。

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『世界中の幸せを二人じめして』



超大国。わたしたちにとって異国の地。
ここで出会った人たちは、本当に貴重な、ゾンビパニックが起きてからは、もっともっと貴重な存在だった。右には、物言わぬ物体となった人間。左には、生ける屍となったゾンビ。

心休まる安息地なんて、どこにもなかった。安全圏に行けば、と何度も考えたけど、本当に安全な保証なんて、どこにもなかった。
家族と訪れたはずのこの地は、大事なものを失ったわたしにとって、地獄そのものだった。

夜が来て、朝日が昇って、また夜が来て。ただただ、命を消費する日々がとても息苦しかった。

繋ぎ止めたかったものは、簡単に崩れるし。わたし独りが、取り残されてしまったし。早くいきたい、早くいきたい。何回も巡って、堂々巡りで。目が回り、頭が溶けそう。

「……大丈夫か?」

現実に引き戻され、焚き火の向こう側から知堂ちどう帯刀たてわきの切れ長の目と目が合った。

「えぇ、もちろん。どうして?」
「いや、大丈夫なら……」
「死にそうな顔でもしてたかしら」

おどけて言ったつもりが、知堂が眉をひそめたので素直に謝った。思った以上に顔に出ていたらしい。

「……知堂くん、わたしね……この時間が、ずっと続いたらいいのに、って思うことがあるの」

サヤリとドゥニアを起こさないように、膝で眠る二人を優しく撫でながら、言葉にしたら止まらなくなった。

「この地で独りって、すごく心細くて。でも、この子たちに出会えて、あなたにも出会えて。それがだんだん当たり前になってきて」
「それでいいのか?」
「ん?」
「日本に、家に帰るんだろ?」

心配そうに、真剣に話す知堂に、思わず笑ったらまた眉がひそめられた。

「そう、そうね……帰りたい、かも」
「かも?」
「今、満たされちゃって。ちょっと揺らいだのよね」

この世界で感じた久しぶりの気持ち。彼には申し訳ないが、離れるのはまだまだ先がいい、とわがままを言いそうになる。

「ごめんね。見張りの交代時間だったのに。話してたら夜更かしになっちゃった」

今日も朝がやってきた。逆光のせいで知堂の顔は見えなかったが、そうだな、と返事が返ってきたのが嬉しく思えた。
いつもより、朝日が綺麗に見えたのは、独りではないから。支えてくれる、支えてあげたい、彼らの存在がもっと近くに感じられたからかもしれない。


23/08/16
*Thanks*
知堂 帯刀さん
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