2014年4月
喧嘩するほど怪我をする。
4月、少年と少女は住み慣れた故郷に別れを告げ、愛しい兄の待つ夢の町へと飛び立っていった。そのはずだった。
重いまぶたをこじ開けてみれば、白い天井に白い壁。無理やり動かした首が悲鳴を上げる。
無視して人の気配がする隣を見やれば、包帯でぐるぐるになったきょうだいの姿。双方ともに恨みがましく睨み合う。しかし口は開かず。
二人は視線を外し、再び天井を見やる。
どうしてこうなっちゃうかなぁ。バカみたいだねぇ。
どうしてこうなったし。あり得ないんだけど。
思うのは同じことだった。
二人が深く息をつけば、呼応したように病室の扉が開く。現れた看護師は彼らと目が合うと、驚いたように、嬉しそうに踵を返して消えていった。次に現れたときには医師や彼らの家族も引き連れて戻ってきた。
あとから聞いた話によれば、三日間も昏睡状態にあったらしい。
ようやく話せるようになると、口をつくのは互いに嫌味だった。
「これ、あまにぃのせいだからね。確実に入学式間に合わないじゃん」
「それはこっちの台詞ぅ。早く夢路町に行ってわだにぃに会いたいのにさぁ、まんまとドクターストップだよぉ」
きっかけは言い争いからの喧嘩、だったと思う。理由なんて思い出せないくらい些細なことだった気がする。
取っ組み合いから二人して揉み合うように自宅の階段から転げ落ちたようで、打撲やら捻挫やら骨折やら何やらかんやら。あまりにも多くて聞くのも嫌になる。
「こーなったら、あたしが先に完治させて置いてってやるんだから!」
「僕の怪我のが軽いからそれはないかなぁ」
「あまにぃは好き嫌いしてちゃんと食べないから治りが遅くなると見た!はーい、残念でした!!」
少女の言葉に少年は笑みを浮かべつつも目が笑っておらず、じとりと睨む。よろしくない視線を感じて少女も鋭く睨み返す。ばちばちという音が似合う空気は回診に来た医師によって遮られた。
そして妙な闘争心による治癒合戦の火蓋も切られた。
──────────
あれから、二人の回復力には目覚ましいものがあった。
予想より一週間も早く完治させたことには担当した医師も看護師も皆一様に目を丸くした。
「結局、一緒に退院だなんて……」
「うららん一人でわだにぃのところに行かせるわけないでしょぉ。抜け駆けなんて許さないんだからぁ」
「なんなのそのセリフ!恋する乙女か!」
的確なツッコミをいれつつ冷ややかに見つめる
ふと何かを思いついたのか麗が口を開く。
「そーいえばさ?あたしらって学校、5月からだよね?」
完治予定が4月末だったため、両親は学校側に事情を説明して、余裕を持った対応をしてもらえたようだった。
そのため退院したのが4月半ばではあるが、まだ学校に行くことはない。
「今のうちにさ、買い出し手伝ってよ!可愛いノートとか探したいんだ!」
「いいよぉ?その代わり僕のにも付き合ってよねぇ」
「任せなって!うららちゃんがいれば百人力ってもんよ!」
「体力だけが取り柄だもんねぇ」
「相変わらず一言多いなー!付き合ってやんないよ!?」
「残念だなぁ、せっかく可愛い文房具屋さん知ってるのにぃ」
「……あたしが悪かったから。だからさ、ね、教えて?」
言葉の応酬、勝ったのは少年だった。ふて腐れる少女にどや顔をして普段はしないが頭をぽんと撫でてやる。
「そうと決まれば一旦帰ろうかぁ。荷物持ったままじゃ何も出来ないからねぇ」
「それは言えてる。よっしゃおうち帰ろ!」
道すがら、また口喧嘩が始まったのは言うまでもない。
14/06/09