2014年6月


お祭り前夜の作戦会議。



6月14日の夜、皐月院学生寮の一室。
メールを作成していた久瀬比奈周の携帯電話が鳴った。電話らしい。相手は彼の妹、久瀬比奈麗だった。

「もしもぉし?」
『はいはーい!いとしのうららちゃんだよ!あまにぃ元気してた?』

携帯を耳に当てることもままならない声量に眉をひそめる。笑顔が崩れ、若干不機嫌な様子だ。

「相変わらず騒がしいねぇ。そんなこと言うために電話してきたなら切るよぉ?」
『んなわけないじゃん!!ホントに切らないで!?あたしが悪かったから話聞いてよ!ちょっと!ねっ!?』

冷たく言い放つと向こうも慌てたようで、口早に謝罪の言葉を並べ立てていった。声色から表情を想像して笑いが込み上げたが至って冷静なふりをして対応する。

「それでぇ、用件は何なのぉ?」
『明日から中央区で夏祭りがあるでしょ?……あれ、えっと、何ていったかな……』
「夢祭りのことぉ?」
『そうそれ!あまにぃ誘って一緒に行こうと思って!!』
「へぇ、うららんからのお誘いなんて珍しいねぇ」
『あれ、そうかな?』

せっかくの夢祭り、しかもこちらに来て初めての地域行事となれば普通は友達を誘うと思っていた。
わざわざ自分に連絡を寄越すなんて想像しなかった。明日は可愛いことを言う妹に会って甘やかすとしようか。

『んで、一緒に巫女さんしようよ!』
「……他を当たればぁ?」
『ちょ、ストップストーップ!!まだ切らないでよ!?』

前言撤回。呆れて物が言えない。
聞けば、今期の成績が思わしくないようで生徒会長から救済措置として巫女のバイトを仰せつかったとか。難しいことはなく、夢祭りの間、夢守りというお守りを守るだけらしい。

「何で僕に頼むのさぁ。お友達いるでしょぉ?」
『言ったじゃん、お守り守んなきゃいけないの。でも奪いに来るやつがいっぱいいるの。それ分かってるのにか弱い女の子を巻き込むわけにはいかないの!!』
「だからってさぁ、僕を巻き込むわけぇ?」
『あまにぃケンカ強いでしょ?あたしもか弱い女の子だから!』
「僕、喧嘩は強くないからぁ」
『ごまかしたってムダよ!うららちゃんぶゆーでんをたーくさん知っているんだから!!』
「うららんだって奪いに来た相手を倒すくらいは余裕でしょぉ?全然か弱くないしぃ」
『巫女服着てたらムリだね!』

か弱い少女ではないことを肯定する言葉だったが、彼女はそれに気がついていないだろう。電話の向こうでどや顔をしているのが見えた気がした。
性格からして意地でも引かないのは目に見えている。そして自分も頼られるのは嫌いではない。答えは自ずと彼女が求めていたものになる。

「はぁ……。分かったよぉ、手伝ってあげるぅ」
『そう言ってくれると思ってた!あまにぃだーいすき!』
「はいはぁい、僕もうららんのこと好きだよぉ」

軽く言えばそんなことにすら嬉しそうな様子が電話越しで伝わってくる。きゃっきゃしていた彼女だが、ふと『そういえば、さ』とトーンが落ち着いて。

『今年も不死鳥祭あるよね。そっちも一緒に行こう?』
「実家に帰れたらねぇ。うららんの成績次第かなぁ?」
『うっ!?補習受けなくていいようにがんばるから!』
「応援してるからねぇ」
『へへっ、ありがと!』

素直に激励すれば照れたように、はにかむように言葉が返ってきた。夏休みの予定が一つ出来たと頭の中のカレンダーに記す。

『じゃあ明日、よろしくね!!夕方、神社集合ね!』
「分かったぁ。遅刻しないようにねぇ」
『おっけおっけ!!おやすみー!』

電話を切ってため息を一つ。
どうしてこうもタイミングがいいのか悪いのか。周は作成途中のメールを未送信ボックスへ送り込む。送信相手には久瀬比奈轍の文字。

「僕も大概お人好しかなぁ。せっかくの計画を壊してくれたんだからちょっとぐらい遊んでも恨まないでよねぇ」

明日は夢路のお祭り。麗でどうやって遊ぼうか企てながら、周の夜は更けていった。


14/06/29
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