旋律はいつでも真っ直ぐに


午前三時のニ長調



音楽を聴くことが、楽器に触れることが昔から好きだった。
家には大きなピアノがある。母親の嫁入り道具らしい。
それが音楽のある人生へと誘ってくれた。

初めて好きになった楽器も、初めて嫌いなった楽器もそのピアノだった。
今ではいろんな楽器を独学でだが身につけ、学校でも助っ人で演奏を頼まれる。周りもよく分かっていてピアノ以外なら喜んで請け負うのがお決まりとなっていた。

その日は月明かりが静かな夜だった。
珍しく学校での簡単な任務だったから相棒、如月きさらぎ由貴ゆきとはすぐに解散した。お互いに次の日もある。早く帰れるのなら休まなければ。

しかしどうしてか、今日は足が階段に向いた。
ひたひたと上った先、音楽室の扉は開かれていた。楽器がたくさん押し込められた独特の空間、耳を澄ませば自分の呼吸の音だけがした。

音楽室の一角、いつもは隠れているグランドピアノの鍵盤が顔を出している。白と黒のコントラストに思わず指が伸びた。
鍵盤は重く、音は軽かった。心が踊った。

そこからは指が動いて気が向くまま、好きな曲を弾き連ねた。長らく触れていなかったが、自分でも驚くくらいに身体は指は鍵盤の感触も音を奏でる喜びも忘れていなかった。

一息つく頃、時計を見て目が回った。いつの間にか夜更けとなっていたのだ。

「そろそろ帰らねぇと、な?」

自分に言い聞かせるようにそっと言葉にしてから、名残惜しかったが響介は帰路に着く。

後日、夜中の学校でピアノの音が聞こえたと噂が立ったのはいい笑い話になった。


18/11/25
*Thanks*
如月 由貴さん
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