三途の川の渡し賃。


年の瀬に見るその色とは?



神代のシマは神代のもの。独裁的でも何でもない。
此処の理、是の条理。脅かす者には制裁を。

耳障りな鳴き声に苛立ちを隠さず足音も隠さず、渡守冴は路地を進む。

「だ、誰だっ!」

威勢良くも怒号のつもりか、どこか戦慄いた声に思わず鼻で嗤う。
緊急伝令にあった雑踏がようやく見えた。身なりからしてギャングの一角だろう、そのだらしなさにはヘドが出る。

赤いつなぎは変わらず、しかし今日の冷えから胸元を守るように赤紫のマフラーが垂れる。
鋭い視線はさながら氷柱、貫かれるような感覚を覚えたのはこの場に居合わせた全員だろう。スクラムが一回り小さくなり、垣間見えた情事に分かりやすく舌打ちする。

「赤と青、揃いの腕輪、パープルマーダーズか。自陣の統制も取れないんじゃ世も末ってね。なぁ、アスカ・ドレッドプール」

冴の冷徹な言葉に場の中心にいたアスカは裸体であるが故の震えとは別種の痙攣に苛まれていた。冬だからではない、寒いからではない、むしろ熱い吐息は艶を帯びていた。

「『2』でも飲まされたのか、それともまさか自分から飲んだのかい?馬鹿げてるよほんと」

ざり、一歩進むと面白いほどに集団がざわめき立つ。各々の顔が青ざめる様も悪くない。

「テメェさまが助けを乞う相手はヤクザじゃないしここにはいない。さっさと『優しいママ』のところに帰りな、それすら阻まれてちゃもう終いだよ」

「ここは神代の国だ。部外者が立ち入るなら覚悟をして、暴れるなら命を賭けな。んでもって、お嬢の息がかかった人間に出会したら……」

すらり、刀身を露にしたことで場の空気は一変する。甘い匂いは消え去り、殺気でじりりと焼け焦げる。

「チャンバラでもして逝き狂えや!!」

髪を靡かせ口角を引き上げ、冴の汚ならしい豪語に触発されたギャング共は我先にと飛び出した。
早く、早く仕留めねば。そうしなければ自分の身が危ない。
何人がそこまで思考出来たことか。

左の打刀で肉を裂き骨を断ち、右の鞘で隙を崩して急所を突く。単純作業を繰り返せば虚勢ばかりの先陣が切り開かれる。

「ほら次、突っ立ってないでかかっておいで。殲滅してやるから」

悪魔の囁き、修羅の所業。
間もなく命可愛さに散り散りとなった連中の後ろ姿は何とも滑稽だった。それ以上に残された彼女もまた。

爪先で転がされる巨躯は傷物にされていた。脳を占めるのは怨み辛みではなく家にどれだけの救急用品があったかどうか。

心の中で当代、神代かみしろ喜美代きみよには陳謝した。あとはこの小汚なくて可愛らしい愛娘をどう運ぶかを考えなくてはいけない。

「どうしようもないね、大晦日なのにやることだらけで家の掃除も出来ないなんて」

この借りはきっちりと返してもらおうか、もちろん身体でね。


19/01/01
*Thanks*
アスカ・ドレッドプールさん
神代 喜美代さん(企画公式さま)
1/2ページ
スキ